神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜
あのクロティルダという男、腹立たしくて仕方ないが。

幸いなことに、常に地上に降りて、常にベリクリーデの傍にいる訳ではなかった。

気がついたらベリクリーデの隣にいて、気がついたら消えている。

これは俺の精神衛生上、とても有り難いことである。

あいつが常にベリクリーデの傍に居たら、一日中、舌打ちが止まらないところだった。




…で、そんなある日のこと。

「ジュリス〜。ジュリス〜」

…今日も今日とて。

ベリクリーデが、俺の部屋を訪ねてきた。

「…何だよ」

俺、今書き物をしているところだったんだが?

3ヶ月後に発行される、年一の聖魔騎士団魔導部隊会報に掲載する、魔導理論論文を書いているところだった。

つまり、超忙しいってこと。

本来なら、今頃には書き終わってるところだったのに。

どっかの天使のせいで気が散って、最近、いまいち筆が進まないのだ。

しかし、締め切りも迫っていることだし、そろそろ本腰を入れなければならない。

ベリクリーデと遊んでいる暇はないのだ。今は。

今はっつーか、いつもだけど。

「あのね、ジュリス。聞いて」

「…何だ?」

ベリクリーデは、目をキラキラさせながらこう言った。

「バナナジュース飲みたいの」

「…は?」

「バナナジュース」

ばな…。…バナナジュース?

…何だよ。いきなり、何の脈絡もなく。

「…!ジュリス、バナナジュース知らないの?」

「いや、知ってるよ。…知らない訳ないだろ」

世の中の大半の人が知ってるよ。バナナジュースくらい。

「で、それがどうしたんだよ」

「シュニィが今朝話してるのを聞いたの。シュニィの子供がね、最近、バナナジュースがお気に入りで、毎日飲んでるんだって」

「…あ、そう…」

…そうなん?知らんけど…。

シュニィの子供…アイナかレグルスのことだろうな。

ふーん。毎日バナナジュース飲んでるんだ。健康的だな。

ちっちゃい子って、バナナジュース好きだもんな。

大人でも好きだけど。

で、その話を偶然耳にしたベリクリーデは。

「自分も飲みたい!」と思ったらしく。

「バナナジュース飲みたい」

と、連呼していた。

…あ、そう。

「…勝手にすれば?」

俺は止めないよ。別に。

バナナジュースくらい、好きな時に、好きなだけ飲めば?

わざわざ俺に許可取りに来る必要ないよ。

「ジュリスも一緒に飲まない?」

俺を巻き込むな。

「悪いけど…俺、今忙しいから。遠慮しとくよ」

「そっかー…。…しょぼーん」

おい。落ち込むなよ。バナナジュースを断ったくらいで。

「じゃあ、一人で行ってくるね…」

「お、おう…」

…一人で、すーっと去っていくベリクリーデ。

…何だろう。

凄く、嫌な予感がするような気がする…。
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