トリックオアトリートな同期の日樫くんがあまくなる夜
「普通のメシ屋だよ」
「あなたの普通ってどんなだろ」
 ふと、昼間の彼と金本さんの会話を思い出す。

「先約があるんじゃなかったっけ?」
「あれさ、お前を誘おうと思ってたから」
 言われて、どきっとした。

「普通、誘う前に先約があるとか言う?」
「いいじゃん別に。それより、行ける?」

「うん……少し待ってくれたら」
「待つよ」
 言って、彼は自分の席に戻る。

 嘘でしょ、彼とごはんなんて。
 私は急いで残りの仕事を仕上げた。





 仕事を終えた私たちは、一緒に会社を出た。
 暗い空の下、ひんやりと澄んだ空気が心地いい。

 ハロウィンだからか、駅から近いこの辺りは人であふれている。魔女にゾンビ、血まみれナースに狼男。みんな楽しそうに笑い合って通り過ぎて行く。

 なぜか日樫くんは大きな紙袋を持っていた。
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