トリックオアトリートな同期の日樫くんがあまくなる夜
「次、お前も」
 仮装なんて私のキャラじゃない。そう思うのにポンチョを被ってしまった。帽子も受け取って被る。彼の雰囲気に呑まれたのだと思うけど、そうさせるのがほんとすごい。

「恥ずかしいなら顔を隠す仮面もあるけど」
 顔の上半分を隠す赤い仮面を見せられ、私はドン引きした。

「やだ、むしろ恥ずかしい。女王様みたい」
「せっかく買って来たのに。100均で」
「100均便利!」
 私がくすくす笑った、そのとき。

「危ない」
 言って、彼は私を抱き寄せる。
 ゴジラがふらふら歩いてきて、私のすれすれを通り過ぎて行った。

「前見えてないよな、あいつ」
「うん……」
 私はどきどきしてしまって、それ以上答えられない。

 ゴジラはもう通り過ぎたのに、彼はなぜか手を離してくれない。
 スーツ越しの彼の胸は温かくて、背中に回った手で頼もしくて。

 彼の顔が私の頭に触れる感触があった。
 嘘、なんで!?
 私の鼓動はばくばくと早鐘を打つ。
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