【Quintet】
『要するに沙羅が悠真を選んで、お前はまさか自分が選ばれるとは思いもしなくて混乱してるってわけね』
『“アレ”が選ばれたって言うのかわからないが、沙羅からキスされた』

　冷静沈着が服を着て歩いているような悠真のポーカーフェイスがここまで崩れた事態は過去にない。沙羅からのキスはそれだけ悠真の心を揺さぶっていた。

『初恋が実って万々歳じゃん』
『そう浮かれてもいられない。久々に自分が昔何をしてきたか思い出したんだ。昨日の並木出版のインタビュアーの女、亜紀子さんの妹だった』
『アキコさんってどこの家のアキコさん？』
『7年前に離婚した、森口さん家の亜紀子さん』

　晴はポテトを手にしてしばし考え込む。

　7年前と言えば自分達は18歳だ。あの年は夏休み前にテストの賭博騒ぎがあったり、黒龍時代の相棒が薬物所持の疑惑をかけられたり。

夏休みには拉致監禁事件に巻き込まれて、冬に由芽を事故で失った。衝撃的な出来事が重なった濃い1年だった。

『あーっ！　思い出した。お前と付き合ってたことが原因で離婚した巨乳人妻のアキコさんかっ！』
『離婚理由は俺のことだけじゃない。巨乳ってところはしっかり覚えてるんだな』
『お前をスタジオに迎えに来てたアキコさんの乳のでかさが印象的でさ。あのアキコさんの妹が昨日のインタビュアーか。過去の女遊びネタに脅された？　あ、ポテト食う？』
『それに近い話。なんとか逃げ切ったけど』

晴に渡されたポテトの残りは半分。
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