あの場所へ
Ⅶ.合宿

1.睡眠薬


合宿への出発の朝。



「はい。これ!」
七海は,俺の鞄のなかに包みを押し込んだ。



「なんだよ。これ。」

「いいから,いいから。
運動ばっかしてると,
本当に運動馬鹿になっちゃうから。」



「馬鹿,馬鹿って,おまえさ・・・」



「じゃあ,頑張ってきてね。
港には見送りにいかないから。」
そういうと,七海は手を振って,
図書室の方へ歩いていった。


俺は,高速船に乗り込むと,
鞄をあけ七海が押し込んだ包みを開けた。



「げぇ 本や・・・」 
中には文庫本が5冊入っていた。



そのうちの1冊を手に取ると,
間から手紙が出てきた。



 どうせ疲れて読まないだろうけど
 身体ばっかり酷使しないで,
 頭の中身も使わないと,腐れるよ。
 読みやすいもの選んでみたの。
 睡眠薬だと思って。
 怪我しないように,頑張って。
 
 直樹。
 どこにいても大好きだよ。
 ありがとう。
   
             七海


5冊のうち,2冊は天体関係の本で,
あとはよく知らない作家の本だった。
手紙を読みながら,
俺は自然と自分の頬が緩んでいくのを感じ,顔を引き締めようと努力した。


天体関係の本を開くと,
昨日興奮して眠れなかったせいか,
数ページも読むと,
高速船のゆれの中で,
眠りに落ちていった。



「ほら,睡眠薬でしょう・・・」

頭の奥の方で,
七海の笑い声が小さく聞こえた気がした。

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