あの場所へ

3.落ちた瞬間

綺麗なスタートだった。

七海がどんどん先へ進み,
後続を引き離していく。

俺は七海の走る姿に見とれていた。


白くて長い手足,華奢な身体で,

まるで天女のように,

風を切って走っているその姿に



俺は完全に心を奪われていた。



俺たちの学年は,
そのままのリードを保ちながら,
アンカーの俺までバトンをつなぎ,
余裕で1位のゴールテープを切った。

そして,俺たち2年生が優勝した。


テントの向こうで
苦虫を潰したような表情をしている
数学の田淵の顔をみつけ,

俺はしてやったりの満足な気持ちで
いっぱいだった。



俺は豊山を登りながら,

七海に落ちた
あの体育祭を思い出していた。

そして,
その日が七海の走る姿をみた
最初で最後だった。


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