エリートなあなた


フロアを歩きながら、両手で頬をぺチンと軽くひと叩きする。いつまでも“課長オーラ”にあてられていてはいけない…。



「ただいま戻りました!遅くなってすみません」

「いいのよー、部長に雑談でも付き合わされたでしょー?」

茶色のドアを開けて一礼すると、一番奥のデスクでPCと格闘する絵美さんの声が返って来た。


「え、と…はい、すみません」

「ほんと長いのよねぇ、あの人の話って。人は良いんだけど、そこが難点よ」


「絵美さんしか言えませんよ、そんな恐ろしいコト!」

「そうですよねぇ」

誰かの発言を発端として、全体に湧き上がる笑いの声。それにつられて私も、くすくす笑ってしまう。



“必ず訪れるチャンス”――先ほど貰ったこの言葉で、今までがウソのように心はフッと軽くなった。


入社時点で希望を絶たれた今の私に、果たして彼の言うチャンスがやって来るのかは分からない。


だけれど、…まだまだ秘書課で頑張ってみようと思えるフレーズに救われた――


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