エリートなあなた



「――私からのご報告は以上となります」


もはや常套句となった言葉で締めると、すぐにパワーポインターの電源はオフにした。



シンと静まり返った2人きりの小会議室で求めているのは、目の前のクールな様相を崩さない上司の答えだ。


すると、トントンとたくさんの資料をデスク上で叩く音が鳴る。つまり彼が持つ検査結果報告書は、これで用ナシの意味。


対峙する人物の表情からは何も読み取れない。当然ドキドキするこの瞬間、何千回味わっていても慣れるモノではない。



「寸法の僅かなズレ…、早々に対処したようだが――その後の具合は?」


「先ほど申しましたとおり、材料の配合割合を変えてからは不具合品の発生はございません。

今後も問題は起きないと踏んで、部長へご報告いたしました」


「そうか」

「はい」


もちろん、先ほどまで説明していた私も顔色は変えない。一抹の不安を悟られれば、責任を負う者として失格だから。


何よりダークグレイの瞳に臆することなく、きっぱり言い切る自信を持ってこの打ち合わせに臨んでいた。



するとフッと口元を緩ませたのは、向き合っていた彼の方であった。


「じゃあお疲れさま。明日の全体会議が楽しみだよ」


「…ありがとうございます」


落ち着いた声音で“お疲れさま”の一言を貰えた時は、徹夜続きの疲労感なんて吹き飛んでしまう。


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