無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 このまま穂乃花に詰め寄り、拐ってしまいたい衝動に駆られる。だが吊り革から手を放したところで我に返った。まだそうと決まったわけじゃない。
 悶々としながら、対角線上に座る穂乃花に目をやる。凪いだ面持ちでピンと背筋を伸ばして座る穂乃花は、乗客の中で誰よりも美しく見えた。

(……穂乃花は俺のものだ)

 ふつふつと湧き立つ醜い情動は嫉妬だ。これから会うであろう男に、彼女を目に映す全ての人間に、自分は嫉妬している。
 
 なにをそんなに焦っているのかと自分でも思う。彼女は自分の婚約者だ。もう既に手中に収めているも同然だというのに。
 だが、どうにも独占欲が抑えきれないのだ。結婚式を待たずとも籍を入れ、名実共に彼女を己のものにしたいと何度思ったことか。

 もしかしたら自分はまだ、航介に聞かされた穂乃花の噂に惑わされているのかもしれない。いつか彼女が自分に飽きて去って行くのではないかという懸念が、頭の隅にいつも残っている。
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