早河シリーズ第四幕【紫陽花】
「影山深麗も23歳になりましたよーだ。仕方ないなぁ。本当にボトル入れてくれる?」
『何でも好きなもの頼めよ』
「今度、ケーキ食べ放題と遊園地一緒に行ってくれる?」
『23の女が行きたい場所なら連れて行ってやる。でもジェットコースターには乗らないぞ』

頑なにジェットコースターを拒む早河の隣でミレイはいつまでも笑っていた。この明るさがミレイの持ち味だ。

「ジェットコースターそんなに嫌いなんだ。可愛いー! 可愛い過ぎる早河さんに特別サービスで教えてあげるね」

 再び早河に寄り添った彼女は早河の耳元で囁いた。

「津田さんは速水杏里のヒモなのよ」
『速水杏里って女優の?』
「うん。3ヶ月くらい前に速水杏里とドラマの撮影で一緒になったの。私みたいなエキストラと速水杏里じゃ格が違うから話す機会もなかったんだけど……」

 二人は密やかに会話を交わす。

「撮影現場に津田さんが来てたのよ。それでね、休憩中に速水杏里が津田さんにお金渡してるとこ見ちゃったの。あれって、津田さんが速水杏里のヒモでお金をせびりに来たか、津田さんに弱味握られてゆすられてるかのどっちかじゃないかな」
『速水杏里と津田がね……』

 速水杏里に関しては映画の主演争いの敗北もあり、吉岡社長からは要注意人物と指定があった。

(速水杏里と津田が繋がってるとすれば……3ヶ月前ってことは今年の3月頃の話か。速水杏里が津田を使って玲夏をマークさせてる線もあるな)

「ボトルは入れなくてもいいよ。ボトルよりもいいモノ貰うから」
『は? いいモノって……』

 ふわりとミレイの香りを間近に感じた刹那、早河の唇に柔らかな接触が起きる。わずかに舌を絡めて離れたミレイの唇が妖艶に微笑んでいた。

「ボトルよりもいいモノ、頂きました」

ミレイはハンカチで早河の唇についた自分の口紅を拭き取った。早河は照れるでもなく、怒ることもせず、ただただ唖然としている。

「そんなにびっくりしないでよ」
『……不意討ちは反則だろ』
「不意討ちじゃなかったらいいの?」
『そういう問題じゃねぇ。店のナンバー3がこんなことしていいのか?』

 自分もいい歳の男だ。キスくらいで照れはしないが、それでも多少の動揺はある。
彼はまだミレイの唇の感触が残る唇で水割りを舐めた。
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