早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
梅雨が明けて嫌になるくらいの暑さが毎日続いた。大学構内を歩いていると同じ大学で高校からの腐れ縁の加奈子が僕の名前を呼んだ。
「夏休みの合宿先決まったって!」
『今年どこ?』
「海だよ海! 場所は千葉!」
『ふぅん。海ねぇ……』
加奈子に誘われて無理やり入部させられたサークルの夏合宿。もうそんな時期か。
僕の合宿参加希望も加奈子が勝手に出していた。合宿と言えば泊まりだ。杏奈と会える貴重な時間が減ってしまう。
「慎也、彼女できたの?」
僕の表情から何を読み取ったのか知らないが加奈子が唐突に聞いてきた。
『ああ、うん。言ってなかった?』
「聞いてない。今度はどんな女?」
僕がどこの誰と付き合っても加奈子には関係がない。高校時代から加奈子とは体の関係はあった。僕の方は加奈子と恋愛した覚えはない。
しかし加奈子はそうは思っていないようだ。
『バイト先の予備校の生徒』
加奈子が目を丸くしている。そんなに驚くことかな?
「それ本当の話?」
『嘘ついてどうするんだよ』
「予備校の生徒ってことは高校生? 慎也ってロリコンだった?」
『まさか。でも本気だから』
恋愛ごっこじゃない。この時点で僕は本気で杏奈を愛していた。
「私とその子、どっちが好き?」
『この場合、加奈子って答えればそれで納得するのか?』
どうして女は聞かなくてもいいことをわざわざ聞きたがるのだろう。本当のことを言えば怒るか泣くか、どちらかのくせに。
「そうだよ……嘘でもいいから私だって言って」
『ごめん。嘘はつけない』
キスをせがむ加奈子を振り払う。誰も傷付けずに生きていくのは難しい。
杏奈を大事にするために僕は加奈子を傷付けた。だけど気持ちに嘘はつけない。
「……変わったね、慎也」
僕に背を向ける加奈子の背中が寂しそうに見えても、追いかけて抱き締めることはしない。
変わった……そうなのかもしれないな。
*
7月も終わりが近づき、僕と杏奈が付き合って2ヶ月が過ぎようとしている。3ヶ月の恋人期間もあとわずか。
僕は約束の3ヶ月が過ぎても杏奈とこのまま恋人でいたかった。彼女もそれを望むはずだと勝手に思い込んでいた。
茜色に染まる街で杏奈を待っていた。僕の目の前を通り過ぎる女の子達は淑やかに浴衣を纏っている。
高校生らしきカップルがやって来た。彼氏が浴衣を着た彼女と手を繋いで、彼女の歩幅に合わせて歩いていた。
その向こうに杏奈が見えた。白地に淡いピンクと紫の柄の浴衣がよく似合う。
「浴衣どうかなぁ?」
『可愛い。似合ってるよ』
「へへっ。自分で着付けたんだよ」
『着付けできるのか。凄いな』
先ほどの高校生カップルの彼氏を見習って、僕は杏奈と手を繋いで彼女の歩幅に合わせて歩き始めた。
杏奈のうなじの色っぽさに心を奪われる。僕のために浴衣を着てくれたのは嬉しいが、杏奈のそんな色っぽい姿は他の誰にも見せたくなかった。
できれば、このまま今すぐ家に連れ帰りたかった。
「夏休みの合宿先決まったって!」
『今年どこ?』
「海だよ海! 場所は千葉!」
『ふぅん。海ねぇ……』
加奈子に誘われて無理やり入部させられたサークルの夏合宿。もうそんな時期か。
僕の合宿参加希望も加奈子が勝手に出していた。合宿と言えば泊まりだ。杏奈と会える貴重な時間が減ってしまう。
「慎也、彼女できたの?」
僕の表情から何を読み取ったのか知らないが加奈子が唐突に聞いてきた。
『ああ、うん。言ってなかった?』
「聞いてない。今度はどんな女?」
僕がどこの誰と付き合っても加奈子には関係がない。高校時代から加奈子とは体の関係はあった。僕の方は加奈子と恋愛した覚えはない。
しかし加奈子はそうは思っていないようだ。
『バイト先の予備校の生徒』
加奈子が目を丸くしている。そんなに驚くことかな?
「それ本当の話?」
『嘘ついてどうするんだよ』
「予備校の生徒ってことは高校生? 慎也ってロリコンだった?」
『まさか。でも本気だから』
恋愛ごっこじゃない。この時点で僕は本気で杏奈を愛していた。
「私とその子、どっちが好き?」
『この場合、加奈子って答えればそれで納得するのか?』
どうして女は聞かなくてもいいことをわざわざ聞きたがるのだろう。本当のことを言えば怒るか泣くか、どちらかのくせに。
「そうだよ……嘘でもいいから私だって言って」
『ごめん。嘘はつけない』
キスをせがむ加奈子を振り払う。誰も傷付けずに生きていくのは難しい。
杏奈を大事にするために僕は加奈子を傷付けた。だけど気持ちに嘘はつけない。
「……変わったね、慎也」
僕に背を向ける加奈子の背中が寂しそうに見えても、追いかけて抱き締めることはしない。
変わった……そうなのかもしれないな。
*
7月も終わりが近づき、僕と杏奈が付き合って2ヶ月が過ぎようとしている。3ヶ月の恋人期間もあとわずか。
僕は約束の3ヶ月が過ぎても杏奈とこのまま恋人でいたかった。彼女もそれを望むはずだと勝手に思い込んでいた。
茜色に染まる街で杏奈を待っていた。僕の目の前を通り過ぎる女の子達は淑やかに浴衣を纏っている。
高校生らしきカップルがやって来た。彼氏が浴衣を着た彼女と手を繋いで、彼女の歩幅に合わせて歩いていた。
その向こうに杏奈が見えた。白地に淡いピンクと紫の柄の浴衣がよく似合う。
「浴衣どうかなぁ?」
『可愛い。似合ってるよ』
「へへっ。自分で着付けたんだよ」
『着付けできるのか。凄いな』
先ほどの高校生カップルの彼氏を見習って、僕は杏奈と手を繋いで彼女の歩幅に合わせて歩き始めた。
杏奈のうなじの色っぽさに心を奪われる。僕のために浴衣を着てくれたのは嬉しいが、杏奈のそんな色っぽい姿は他の誰にも見せたくなかった。
できれば、このまま今すぐ家に連れ帰りたかった。