低温を綴じて、なおさないで
終盤のキスシーン、ちょっと気まずかったから画面に集中していたけれど、私の努力は水の泡となった。右隣に座る矢野さんから手が伸びて、指先同士が絡んだ。
こんなふうに手と手を繋げたこと、なくて、また鼓動がはやまった。体温が溶けて、いっしょに、ひとつになってゆく。
ほどけるはずもない、見上げられるはずもない、ただただ受け入れるしかなかった。
お互いに一目惚れしたふたりの想いが通じ合い、抱きしめあって終わった映画のラスト。
私と矢野さん、こうなればいいのに、なんて思った。エンドロールが流れはじめて、彼が言葉を紡ぎはじめた。
「よかったね、いい話だった」
「そうですね」
「……俺もあんなふうにしたくなっちゃった」
「……へ」
"こうなればいい"と"あんなふうにしたい"は少々意味がちがう。
私がその言葉の意味を咀嚼して理解する前に、彼の腕の中に引き入れられ閉じ込められた。かたい胸板が頬にあたる。とくとくと心臓の音が聞こえる。私のものよりずっとゆっくりで落ち着いていた。
「や、矢野さん、」
「なーに?」