低温を綴じて、なおさないで
人を掻き分けるように、向こう側の柱に体重を預ける直のもとへ駆けていった茉耶。
まだわたしと目を合わせ続けている直に、『あ わ せ て』と口パクで伝える。
片手でごめんとポーズしたら、茉耶にはバレないように直が手のひらをゆらりとひらめかせてわたしに返事をした。
最近知り合った女の子が実はわたしの友達で、それが茉耶には伝わっていない、栞が伝えていない、というのを汲み取ってくれていると思う。プラス、これまで幾度となく好意をぶつけられてきた直にはきっと茉耶の好意は伝わっていると思う。
今夜、弁明させてもらおう。うれしそうに直に話しかける茉耶と、柔らかに応える直を眺めながら『今日、22時』と約束を電子の波に流し込んだ。
駅方向に歩いていく人の波と、紺が辺りを飲み込む空。暖色は茉耶の心のなかだけかもしれない。
⸝⸝꙳