Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

紫微垣の試練⑪――破軍(はぐん)の祠

 つるべ落としと言われる夕闇が深まる中、3人は最後になる破軍の祠に向かっていた。
 紫微垣の試練、2人の少女の告白――シリウスは頭の中がパンクしそうだった。そのため、道中も気まずい空気になり、話があまり弾まない。
 やがて祠が見えてきた。が、他の六つの祠と違い、この破軍の祠は初めて来た。
 夕闇に佇む祠は――特に何もない。その横にある小屋に目がいった。シリウスは、とりあえずその小屋の扉を開けてみる。蝋燭に火を灯すと中には大きな石の塊があった。その近くには、金属を溶かす炉、桶、分厚い手袋などの道具がある。
「シリウス、ここってもしかして……」
「ああ、剣を精錬する場所だ」
 兼貞の祠で借りた本を開いてみる。
「……」
「どうしたの? シリウス?」
「読めん」
 スピカに本を渡す。
「これ、古文じゃない」
「ええー、何で今の言葉じゃないの?」
 ミラが文句を言う。
「そりゃあ、カノープス師匠が若かった頃に作ったんだろうからなあ」
 シリウスが天を仰ぐ。どうするかな……。
 すると、スピカが一つ一つを解読し始めた。
「でも、ある程度は分かるわ。シリウス、こっちに来て」
 スピカに手を取られ、シリウスは奥に入っていく。そこにはボタンのようなものがあった。
「これが炉の起動スイッチね。で、こっちが水を入れる金属の桶。手袋は熱くなった星金を触る時のものかな」
 日本刀を作る工程に近いようだ。日本刀は、刀の原料になる玉鋼を高温で溶かし、鎚で叩きながら伸ばして冷ます。おおざっぱに言えばこの工程を繰り返し、刀身に鍛え上げるのだ。
 しかし、その本にはこの施設の使い方は書いていても、作り方は書いていなかった。
「…師匠が言っていたな。設計図や作り方の書はない、自分の頭に浮かんだイメージで作れって」
 シリウスはスピカから材料一式を受け取り、作業を始めることにした。
「二人とも、ここまでありがとう。最後は俺1人でやる。外で待っていてくれ」

 早速、シリウスは炉のスイッチを入れた。高温に達するまで時間がかかる。その間に材料を並べ、作り方を考えることにした。
(…と言っても、剣なんて作ったことないし、やっぱり分からん)
 材料は星鏡が六つ、星金、海の塩、炭、さっきの本。星金と星鏡は七星剣になるからいいとして、塩と炭はどうやって使うのだろう――?
(そういえば、七つ目のがまだだな)
 小屋の中を探そうと思った。が、闇雲に探しても見つからなさそうだ。
(…瞑想するか)
 シリウスにとって一番苦手なことである。今日は1時間したからもういいや、と思いたかったが、七星剣がかかっているとなるとそうはいかない。
 シリウスは正座し、両手を合わせて瞑想を始めた。スピカとミラのことが思い浮かび、雑念が起きる。それでもひたすら瞑想を続けた。

 ――30分ほどたった頃、まぶたの裏に不思議な光景が現れた。
 赤く焼けた炉に星金が入れられ、さらに炭も入れられる。ドロドロに溶けた星金は炉の出口から出てくる。その中に光るものがあり、それを拾い上げた後に塩を七箇所に分けて振りかける。すると星金がひしゃく型に変形し、空いていた穴に星鏡七つを入れる。

 シリウスは目を開けた。
「今のが作り方か?」
 夢だろうかとも思ったが、やってみることにした。
 高温に達した炉に星金と炭を入れた。すると、わずか数分でドロドロに溶けて出てきた。
「ん? これは……」
 その溶けた星金の中にキラリと光るものが――七つ目の星鏡である。
 シリウスは急いで火箸をつかみ、それを拾い上げた。今度はすぐに塩を振りかけた。すると、星金がひしゃく型――北斗七星の形に変形した。
 最後に七つの星鏡をはめる。それが見覚えのある形状になった時、声が聞こえた。
「え? 武曲の祠?」
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