Star Shurine Gardian ―星の大地にある秘宝の守護者―

魔剣異聞⑤――中つ都と西の村

「東の都はダメだ! 俺の活躍できるステージがない!」
 そう思ったアルタイルは、東の都を去って中つ都に向かった。
 中つ都は、星の大地で2番目に大きい都である。人口は東の都の半分ほどだが、発展に伸びしろがあり、将来は東の都の活気を追い抜くと推測されている。ちなみに、東の都がおうし座の星図を模しているのに対し、中つ都はオリオン座である。上下二つの台形の地面は碁盤のように整備されている。オリオンの星を結ぶ線が川になっていて、川が町を囲むような地形である。東側は東の都との行き交いがあるため拓けているが、南側は海で北と西は山と森になっている。東の都に比べ、まだ自然が豊富に残っているのが特徴だ。

 アルタイルは、ここでも警備兵の仕事に就いた。が、今度は上司と反りが合わず、これまた1カ月ほどでやめた。何をやっても続かない忍耐力のなさだが、もし苦言を呈する人間がいれば、少しは自分の生き方を省みたかもしれない。
 しかし、アルクトゥルスの元を去った彼には、そのような助言者がいない。しばらく日雇いの仕事をしていたが、徐々にストレスがたまり、酒や女性におぼれるようになった。慎ましく生活していれば、東の都で得た貯えを崩さずにすんだのだが、放蕩がたたり、どんどん減っていった。
「このままではまずい……」とさすがに思い始めた矢先、酒場の店員を見初め、声をかけた。それが妻・デネブとの出会いだった。最初は顔見知り程度の仲で声をかけるだけだったが、一緒に食事に行くようになり、恋に落ちたのだ。
 この頃、デネブは母親を亡くしていた。幼い頃に父親が家を出て行ったので、彼女は天涯孤独となったばかりだった。その寂しさを埋めてくれる存在が、アルタイルとなったのだ。アルタイルはデネブをいつも気遣い、大事にしてくれるように見えた。やがて肉体関係をもち、デネブの家に住みつくようになり、子供を授かることになった。
「幸せな家庭を築こう」と2人で誓った。しかし……。

 アルタイルは、デネブが妊娠しても仕事に就かず、酒におぼれていた。つわりがひどくて寝込んでいる時など、「病気じゃないんだから、しっかりしろよ。大げさだな」と、心ない言葉を浴びせ続けた。次第にデネブの心は、生活費や出産などへの不安に満ちていく。そんな折り、最悪の事態が起きた。アルタイルはやっと職を見つけたというのに、1週間でやめてしまったのだ。上司と口論になり、殴ってクビになったという。これを聞き、デネブは初めて声を荒げた。
「もうすぐ子供も生まれるのに、どうするのよ!? なんでそんなにがまんできないの!?」
 この瞬間、アルタイルは床に置いてあったバケツをデネブに向かって蹴り飛ばした。
「うるせえ!! 気にくわなかったんだから、仕方ねえだろうが!!」
 デネブはビクッとひるんだ。以後、アルタイルの言動にビクビクするようになり、それを見たアルタイルはさらにいら立ちを募らせるようになる……。

 そんなある日、アルタイルが日雇いの仕事から帰宅すると、唐突に言った。
「おい、この都から引っ越すぞ」
 聞くと、仕事仲間から「都の北西に行くと西の村に行ける」と教えてもらったのだ。しかし、その村は星の大地で最も治安が悪く、ならず者の村として有名である。法の支配が及ばず、東の都、中つ都で落ちぶれた者が流れ着く。星図で言えばおおいぬ座にあたる。
(そんなところに住むの……?)
 デネブは不安だったが、口には出さなかった。最近は顔をひっぱたかれることも多く、思ったことを言うことさえできない。
 おなかも大きくなり、来月には赤ちゃんが生まれるだろう。そんな体で引っ越すなど無謀だった。が、夫のアルタイルに逆らうことはできず、渋々従った。

 2人は、西の村の一画にある長屋に住むことにした。噂通りに都で失脚し職を追われた役人、野盗くずれ、破戒の聖職者、娼婦などのならず者が多い。長屋は所々に穴が空いていて隙間風が入ると寒い。しかし、これでもこの村の家としてはマシな方である。住居の七割は簡素なテントで、中には野宿をしている者もいた。長屋に入れたのは運が良かったとしか言いようがない。
 食料は、海で魚を釣るか、森で獣を狩ったり野草を採ったりするしかない。農業をしても作物を盗まれるため、誰もやっていないのだ。
 食事が安定していないと体がもたないので、そのために早死にする者も多い。亡骸は、村の北西にある崖から海に投げ入れるとのことだ。生き様も死に様も悲惨であった。

 そんな中、ついにデネブは出産の時を迎える――。
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