白い結婚?喜んで!〜旦那様、その恋心は勘違いですよ〜

第二章「あっさり結婚の運びとなりました」

♢♢♢
 現在、馬車の中。三時間揺られ、休憩。また三時間揺られ、休憩。夜はさすがにその土地の領主の屋敷に寝泊まりさせてもらったけれど、朝起きて朝食後は、またすぐに馬車に乗せられる。
「うぉえぇっぷ!」
「お嬢様、お控えください」
「む、むり。吐きそう。あ、吐く。吐いちゃう」
「そこを飲み込んでこそ、真のご令嬢です」
 意味不明な台詞を口にしながらも、私の背中を撫でてくれるマリッサは優しい。と思う、たぶん。
「酔うと分かっておられるのですから、食事を少なめに摂られるようにと、お薦めしましたのに」
「だって私、食い意地張ってるんだもの」
「威張っておっしゃることではありません」
 彼女の言い分は尤もだけれど、今まで自領と王都しか知らなかった私にとって、こんな機会初めてだった。その土地ごとで特産品が違っていて、郷土料理はどれもおいしいし、二度と来れないかもしれないと思ったら、体が全部埋まるくらいぎちぎちに詰め込みたくなる。
「でしたらなおさら、吐けませんね」
「た、確かに……。おええぇっ」
 天国と地獄を彷徨うこと、なんと十五日。私はようやく、これから生活していく地となる『ブルーメル』へと足を踏み入れたのだった。
 ちなみに、私達の結婚宣誓式は王都で行われたのだけれど、それはそれは簡素なもので、母は別の意味で泣いていた。
 当の私はまったく構わなかったし、むしろ披露パーティーを無駄に何度も開かなくて済んだことに心底ほっとした。親族以外に招待する友人なんていないから、初対面に等しい両親の知り合いを呼ぶしかない。あと、マリッサが用意したらしいサクラ達。
「おめでとう、フィリア!」と知らない人から手を握って祝福されたのが、少しトラウマになっている。向こうも仕事だから、なんだかごめんなさいという気持ちになった。
 ヴェールに包まれた新婦、つまり私はほとんど前が見えていない。旦那様となるオズベルト・ヴァンドーム様のご尊顔も、ちっとも尊べなかった。あのヴェールは分厚すぎる。作ったの誰よ……って、母だった。
 刺繍が苦手なので仕方ないとはいえ、私じゃなかったら確実に転けて怪我をしていると思う。
 そんなへんてこ新婦と、終始無言の新郎。ただの一度もヴェールを上げようとしなかった彼は、きっと私に興味がないらしい。
 式が異様に短いことに不満たらたらだった母は、最後には「もっと短くても良かったかも」と失笑していた。
「まぁまぁ、お母様。私のドレス姿、素敵でしょう?」
「そうね。娘の晴れ姿を見られただけでも、良しとしましょう」
「わぁ、意外とまともな答えだわ」
 こんな時まで茶化す私に呆れた視線を向けながらも、結局のところ家族は温かく祝福してくれたのだ。
 ヴァンドーム様……、もとい旦那様も元々は一緒に王都にいたわけで、出立日も当然同じ。それなのに、私とはほとんど顔を合わせることなく、さっさと別の馬車に乗り込んで先に行ってしまった。
 我が屋敷には大量の贈り物が届けられたらしいけれど、もので釣ればいいという話ではない。これにはさすがに、両親も立腹して――。
「口は出さずに金を出す、最高の夫だ!」
 いるはずもなく、ご満悦の表情でぶんぶんと両手を振っていた。
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