元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
「入れ」

 クラウスの返事を聞くと、ゆっくりとドアが開く。
 するとそこには、ミントグリーンのドレスを纏った、金髪の令嬢が立っていた。
 彼女は正面の机にクラウスの姿を認めると、パアアと表情を明るくした。

「ブリオット公爵、ようやくお会いできて光栄ですわ……!」

 そう言ってミレイユが書斎に入ると、すぐに視界の隅にとある人物が映った。
 壁際のソファーに座る姉に気づいたミレイユは、心の中で舌打ちした。
 しかし、クラウスに本性を見破られないよう、あくまで表情は穏やかに努めた。

「……できれば、ブリオット公爵と二人きりでお話がしたかったのですが」
「彼女がいたら、なにか問題がありますか?」
「……いいえ、むしろ都合がよかったかもしれません、彼女も一緒に聞いていただければ、話が早いので」

 ミレイユはクラウスがいる机の前で立ち止まると、ドレスの裾を持ち上げ、膝を曲げて挨拶する。

「改めまして、ミレイユ・ドーリー・フランチェスカと申します、フランチェスカ伯爵家の次女で、そこにおりますアンジェリカの妹ですわ」
「……存じ上げておりますよ、僕の婚約者の妹君が、なんのご用でしょうか?」

 机を隔てて、クラウスとミレイユは対面する形で目を合わせた。
 ドアを閉めたフリードリッヒは、その様子を部屋の片隅で見守る。
 アンジェリカはなにが始まるのかと、緊張を高めていた。

「私は、爵位式からずっと悩んでおりました、ブリオット公爵に本当のことを話すべきか否か……ですが決心いたしました……身内の恥を晒すようで心苦しいのですが……あなた様のためを思って、彼女……お姉様がどういう人間なのか、話をしに来たのです」

 アンジェリカは顔を上げると、前方に見えるミレイユの横顔を見た。

「いいですよ、話を聞きましょう」
「実はお姉様は、幼い頃から病をお持ちなのです……それも身体的なものではなく、精神から来る重篤な病を」

 ミレイユは少し目を伏せ、口元に手を添えて語り始めた。
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