年下男子を好きになったら 〜戸惑い女史とうっかり王子の、なかなか始まらない恋のお話〜
そして翌朝。
会社行きたくないよう!と思いながらも本日もいつも通りの時間にキッチリ目が覚めてしまう。
社会人の鏡だと自嘲しながらベランダに出ると、葉の生い茂る中に咲く小さな黄色が目についた。

「あ!やっぱり咲いたんだねえ」

思わず声が出てしまう。こういう成長が見られるから、家庭菜園はやめられない。ほんの些細なことながら気持ちが上向きになってくる。
昨日の自分を励ます様に咲いてくれたのかな?なんて都合のいいことを考えながら健気な花に見惚れていたが、次の工程も待っている。

「よし!では、今度は受粉させてあげないね」

私は一枚写真を撮ると、申し訳ないと思いつつ花弁ピンと指で弾いてみる。ふわりと花粉が舞い上がれば、それが受粉された合図らしい。

「……これで、大丈夫なのかな?」
そっと花に触れてみる。
この花が実を結び、そのまま無事に育ちますように。
そして私もあんな視線など気にせずに、職場に馴染んで仕事ができるようになりますように。

そんなことを願いながら身支度を整え部屋を出るのだった。

――

さて一通りのレクチャーは受けた後は、いよいよ実務の始まりとなる。

営業1課での今の所の私の仕事は、各営業担当者の補助として、主に見積作成の事務作業や電話応対、そして細々とした雑用等というところ。

「じゃあ何かとわからないことがあったらいつでと声を掛けてくださいね」と、励ますようにニッコリ笑って自分の業務へと戻る田島さんを見送ると、私は一人気合を入れた。

今日からいよいよ独り立ち。
とりあえず頑張っていこう!

決意新たに席に座ると早速電話のコールが鳴る。

「はい、コトブキ産業営業部です。」

初めて取った電話の向こうの相手は早口で用件らしき言葉をまくし立てている。けれど向こうの携帯の電波状況は悪いようだし、何を言っているのか全然わからない。これは朝から困ったぞ。
メモを取りながらもう一度名前を聞いてみる。

「大変申し訳ありませんが、もう一度お名前お伺いできますか?はい、はい……アカガワ工業のヘキ様?ですね?トダ宛てに、ですね?少々お待ち下さい。」

アカガワ工業なんて取引先にあったっけ?
っていうか、営業1課にトダさんなんていたっけ?

席次表と周囲を見ながらアタフタしていると、その横でガタリと席を立つ音の後、頭上から大きくよく通る声が事務所に響いた。

「野田さーん!ヤナガワ工業の関さんから、外線1番に電話でーす!!」

……咄嗟に助け舟を出してくれたのは、隣の席の若い男の子。6歳下の26歳だと言う、田中君だった。

「すみません、ありがとうございました。」

田中君にお礼を言うも、電話口で確認したはずの名称が何一つ合ってなかったことにションボリする私に、田中君は席に座りながらニカっと人懐こそうな笑顔を向けてきた。

「ヤナガワ工業の関さんの電話は、初めて応対した人はまず聞き取れないことで有名ですから、ドンマイですって!むしろイイ線までいってたほうですって!」
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