早河シリーズ最終幕【人形劇】
ホール両サイドの四つの扉が開き、阿部警視が引き連れた機動隊が貴嶋を取り囲む。舞台袖にも機動隊が並んで貴嶋は包囲された。
利き手ではない左手に銃を手にした貴嶋と機動隊が威嚇し合う。
『貴嶋、お前も神にはなれなかった。もう諦めろ』
『そうだね。確かにこの状況では私の敗けだ。……だが』
銃の照準が莉央に合わさる。貴嶋の意図を察した早河が莉央へと伸ばした手は彼女の腕を掴むことなく、莉央自身に振り払われた。
『やめろっ……!』
『確保だ!』
早河と阿部の叫びに重なって一発の銃声が無情に響いた。花が散る瞬間のように儚く、さらさらと長い髪をなびかせて彼女の身体は倒れてゆく。
『おい! 大丈夫かっ?』
通路の間に横たわる莉央を早河が抱き起こした。莉央の腹部には血が滲んでいる。
機動隊に取り押さえられた貴嶋は奇声を発して笑っていた。
『これでいい。神になることは諦めよう。しかし莉央だけは諦めないよ。莉央は永遠に私のお人形さんだからね。私の手で葬ってあげよう。そして永遠に私のものになれ』
『自分のものにするためなら殺しても構わないのか? 彼女を愛しているんじゃないのかよ!』
激昂する早河の腕の中にいる莉央の顔は血の気が失せて青白く、弱い呼吸を繰り返している。
ハンカチで莉央の腹部を押さえる早河の手が彼女の血に染まる。震える莉央の手が早河の手に触れた。
「これで……いいの……」
『何がだ! どうして防弾ベストを着なかった? あんた最初からこのつもりで……』
莉央は薄く目を開けて微笑した。優しく細められた瞳に涙が浮かぶ。
「私じゃ……ダメだった。キングを救えなかった……」
『あんたは精一杯のことをした。貴嶋を裏切ってでもあいつを止めようとしたんだ』
「それも……ただの私のエゴ……。あの人には迷惑なだけだったのよ」
涙で滲む景色の向こうに機動隊に連れられていく貴嶋の背中が映った。初めて出会った時から自信に満ちて堂々としていた彼の背中が、今はとても小さく見える。
『救急車の手配をした。病院まで頑張るんだ』
阿部も莉央の傍らに寄り添って止血作業を手伝い始める。腹部を撃たれた莉央の傷口からは血がおびただしく溢れていた。
「……なぎさは?」
『あんたが教えてくれたマンションに上野さんが向かってる。なぎさが連れ去られたって聞いた時、少しだけあんたを疑った。すまない』
「仕方ないわよ……。キングを欺くには……ああするしかなかった。なぎさには……怖い思いをさせちゃったわ」
彼女は首に下げた金色の指輪に触れる。
「これを……なぎさに渡して。あの子はこんなもの、いらないだろうけど、私の形見だからって」
『あんたが死んだらなぎさが悲しむ。渡すならあんたが生きて渡してくれ』
「……ふふっ。生きていたら……形見にはならないのよ? でも……なぎさには……あなたがいる。だから……だいじょう……ぶ……」
涙を流して微笑む莉央の瞳が静かに閉ざされた。
利き手ではない左手に銃を手にした貴嶋と機動隊が威嚇し合う。
『貴嶋、お前も神にはなれなかった。もう諦めろ』
『そうだね。確かにこの状況では私の敗けだ。……だが』
銃の照準が莉央に合わさる。貴嶋の意図を察した早河が莉央へと伸ばした手は彼女の腕を掴むことなく、莉央自身に振り払われた。
『やめろっ……!』
『確保だ!』
早河と阿部の叫びに重なって一発の銃声が無情に響いた。花が散る瞬間のように儚く、さらさらと長い髪をなびかせて彼女の身体は倒れてゆく。
『おい! 大丈夫かっ?』
通路の間に横たわる莉央を早河が抱き起こした。莉央の腹部には血が滲んでいる。
機動隊に取り押さえられた貴嶋は奇声を発して笑っていた。
『これでいい。神になることは諦めよう。しかし莉央だけは諦めないよ。莉央は永遠に私のお人形さんだからね。私の手で葬ってあげよう。そして永遠に私のものになれ』
『自分のものにするためなら殺しても構わないのか? 彼女を愛しているんじゃないのかよ!』
激昂する早河の腕の中にいる莉央の顔は血の気が失せて青白く、弱い呼吸を繰り返している。
ハンカチで莉央の腹部を押さえる早河の手が彼女の血に染まる。震える莉央の手が早河の手に触れた。
「これで……いいの……」
『何がだ! どうして防弾ベストを着なかった? あんた最初からこのつもりで……』
莉央は薄く目を開けて微笑した。優しく細められた瞳に涙が浮かぶ。
「私じゃ……ダメだった。キングを救えなかった……」
『あんたは精一杯のことをした。貴嶋を裏切ってでもあいつを止めようとしたんだ』
「それも……ただの私のエゴ……。あの人には迷惑なだけだったのよ」
涙で滲む景色の向こうに機動隊に連れられていく貴嶋の背中が映った。初めて出会った時から自信に満ちて堂々としていた彼の背中が、今はとても小さく見える。
『救急車の手配をした。病院まで頑張るんだ』
阿部も莉央の傍らに寄り添って止血作業を手伝い始める。腹部を撃たれた莉央の傷口からは血がおびただしく溢れていた。
「……なぎさは?」
『あんたが教えてくれたマンションに上野さんが向かってる。なぎさが連れ去られたって聞いた時、少しだけあんたを疑った。すまない』
「仕方ないわよ……。キングを欺くには……ああするしかなかった。なぎさには……怖い思いをさせちゃったわ」
彼女は首に下げた金色の指輪に触れる。
「これを……なぎさに渡して。あの子はこんなもの、いらないだろうけど、私の形見だからって」
『あんたが死んだらなぎさが悲しむ。渡すならあんたが生きて渡してくれ』
「……ふふっ。生きていたら……形見にはならないのよ? でも……なぎさには……あなたがいる。だから……だいじょう……ぶ……」
涙を流して微笑む莉央の瞳が静かに閉ざされた。