2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました
「ピア嬢……?」

 いい声が私の名前を呼び、はっと顔をあげる。ファルク様だ。彼と目が合った瞬間、私はとっさに手紙と花束を背中に隠した。心臓が早鐘をうち、ファルク様から目をそらす。

「……どうしたんだ。顔が真っ青だ」

 ファルク様が心配そうな声をだして、私に近づく。私は一歩、後ろにさがる。

 頭の中が混乱して、うまく考えがまとらない。胃が痛み、吐き気が喉元までせりあがってくる。

 ファルク様は護衛の準備をしていた。もうすぐ出立されるだろう。
 ご迷惑をかけるわけにはいかない。巡礼の護衛は、この土地では大きな収入源。元夫とのことで、ファルク様の手をわずらわせるわけには……

 そうよ……ひとりでロジェリオから逃げ出せたんじゃない。今度だって、ひとりで大丈夫。近づかれても、また逃げればいいじゃない。逃げれば……

 ――逃げるって、……どこへ?

 この土地から、去るの?

 ファルク様の元から、私は……去るの?

「こんなに震えていて、……ピア嬢、何があったんだ! 教えてくれっ」

 切羽詰まったファルク様の声を聞いたら、自分の心に嘘はつけなかった。

 私は、ファルク様のそばに居たい。

「ファルク……さま」

 助けてくださいとは言えなかった。手紙と花束を握ったまま、彼の名前を呼び、涙を流した。

 ファルク様は私が泣き止むまで、何も聞かず、そばで見守っていてくれた。そしてすべてを打ち明けた時、ファルク様は眉間に深い皺を刻んだ。

「あなたがこの地を去る必要はどこにもない」

 手紙が届いたということは、ロジェリオが近くにいるかもしれない。その事実に、ぞっとした。震える私にファルク様が言う。

「修道院の護衛を強化する。ひとまず、私が晩までここにいよう」

 思ってもみない提案だった。でも、同時に申し訳なさもこみ上げる。
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