ことなかれ主義令嬢は、男色家と噂される冷徹王子の溺愛に気付かない。
(一体、殿下は何をお考えなのかしら)
基本的に、リリーシュは分からないと思った事はそれ以上考えない様にしている。しかしこれに関しては、割と長い間頭を上下左右様々な方向に捻った。やはり、幾ら捻ろうともちっとも理解が出来ない。
未だ婚約者未満の宙ぶらりん状態である彼女だが、追い出されない限りは気にしない。また以前の様に難癖をつけられても、適当に躱せば良いと呑気に構えていた。
しかし、事態が逆・ともなれば話は変わってくる。リリーシュは、こうなる事を全く予想していなかった。
あの二度目の食堂での出来事以来、毎回夕食の度にルシフォールから声が掛かる様になってしまったのだ。フランクベルトがそれを伝えにやってきて、私はたちまちメイド達に囲まれ思いっきり腰元を絞められる。
本来ならばもっと食べられるのに、このコルセットの所為で思う存分食事を堪能出来ないことを、リリーシュは悲しく思っていた。
確かに彼女はルシフォールに対し、一人で食事をするのは寂しいと言った。しかしそれは、眉間に深い皺をたたえた不機嫌な男性と食事をしたいという意味では決してない。
毎度リリーシュを呼ぶ癖に、軽い世間話すらしようとしない。ただただ美味しくなさそうに黙々と料理を口に運ぶだけなので、彼女も段々と嫌気がさしてきた。かといって自分から話し掛けても鬱陶しそうな顔をされるだけなので、その内リリーシュは諦めた。
(ここに居られる内に、殿下の美味しそうな表情を一度は見られるかしら)
リリーシュにとっては、こんなに美味しい料理を何故あんな顔で食べる事が出来るのか、全く理解が出来なかった。だからリリーシュは気にするのをやめて、思いきり美味しそうな表情で食べてやった。合わせる必要などないのだから。
「お嬢様。これは、もしかしたらもしかするかもしれませんよ!」
湯くみを終えたリリーシュの髪を梳かしながら、侍女のルルエが楽しそうな声でそう言った。
「それはどういう意味なの?」
「ですから、エヴァンテル殿下がお嬢様に惚れてしまわれたのではという事です!」
「ルルエ。それは有り得ないわ」
「何故ですか?」
「ルルエは殿下のあのお顔が、私との食事を楽しんでいる様に見える?」
「いいえ、全く」
「でしょう?大方、王妃様に私を邪険にするなと嗜められたのでしょう。だから仕方なく、夕食を一緒に摂る事にしたのよ」
「ですが、他の使用人の話だと今までにそんな扱いを受けたご令嬢は一人も居ないと」
「だからよ。流石に王妃様も焦っていらっしゃるのだと思うわ。もう他に、つり合う身分のご令嬢が残っていないのよ。借金まみれとはいえ、アンテヴェルディは公爵家なのだから」
「なる程。そう言われると確かに」
リリーシュの言葉に納得した様な表情を見せるルルエを鏡越しに見ながら、リリーシュは笑った。
「とにかく、私は粗相をしない様に当たり障りない振る舞いをするだけよ」
「いっその事気のある素振りを見せて期待させた所で、思いきり振ってやればいいんですよ!」
「まぁ、ルルエったら。そんな事を言ってはダメよ」
「私はあの態度が許せませんから」
プンとそっぽを向くルルエを可愛いと思いながら、リリーシュはルシフォールの仏頂面を思い出していた。
もしも殿下に意中の男性が居て、叶わぬ恋をしているのなら。したくもない女と我慢して食事をしながら、心の中でその人を恋焦がれているのなら。それはとても悲しい事だと、彼女は思う。
(私に何か出来る事があれば良いのに)
もうすっかりルシフォールにエリオットを重ねてしまっているリリーシュは、彼の幸せを願わずには居られなかったのだ。
基本的に、リリーシュは分からないと思った事はそれ以上考えない様にしている。しかしこれに関しては、割と長い間頭を上下左右様々な方向に捻った。やはり、幾ら捻ろうともちっとも理解が出来ない。
未だ婚約者未満の宙ぶらりん状態である彼女だが、追い出されない限りは気にしない。また以前の様に難癖をつけられても、適当に躱せば良いと呑気に構えていた。
しかし、事態が逆・ともなれば話は変わってくる。リリーシュは、こうなる事を全く予想していなかった。
あの二度目の食堂での出来事以来、毎回夕食の度にルシフォールから声が掛かる様になってしまったのだ。フランクベルトがそれを伝えにやってきて、私はたちまちメイド達に囲まれ思いっきり腰元を絞められる。
本来ならばもっと食べられるのに、このコルセットの所為で思う存分食事を堪能出来ないことを、リリーシュは悲しく思っていた。
確かに彼女はルシフォールに対し、一人で食事をするのは寂しいと言った。しかしそれは、眉間に深い皺をたたえた不機嫌な男性と食事をしたいという意味では決してない。
毎度リリーシュを呼ぶ癖に、軽い世間話すらしようとしない。ただただ美味しくなさそうに黙々と料理を口に運ぶだけなので、彼女も段々と嫌気がさしてきた。かといって自分から話し掛けても鬱陶しそうな顔をされるだけなので、その内リリーシュは諦めた。
(ここに居られる内に、殿下の美味しそうな表情を一度は見られるかしら)
リリーシュにとっては、こんなに美味しい料理を何故あんな顔で食べる事が出来るのか、全く理解が出来なかった。だからリリーシュは気にするのをやめて、思いきり美味しそうな表情で食べてやった。合わせる必要などないのだから。
「お嬢様。これは、もしかしたらもしかするかもしれませんよ!」
湯くみを終えたリリーシュの髪を梳かしながら、侍女のルルエが楽しそうな声でそう言った。
「それはどういう意味なの?」
「ですから、エヴァンテル殿下がお嬢様に惚れてしまわれたのではという事です!」
「ルルエ。それは有り得ないわ」
「何故ですか?」
「ルルエは殿下のあのお顔が、私との食事を楽しんでいる様に見える?」
「いいえ、全く」
「でしょう?大方、王妃様に私を邪険にするなと嗜められたのでしょう。だから仕方なく、夕食を一緒に摂る事にしたのよ」
「ですが、他の使用人の話だと今までにそんな扱いを受けたご令嬢は一人も居ないと」
「だからよ。流石に王妃様も焦っていらっしゃるのだと思うわ。もう他に、つり合う身分のご令嬢が残っていないのよ。借金まみれとはいえ、アンテヴェルディは公爵家なのだから」
「なる程。そう言われると確かに」
リリーシュの言葉に納得した様な表情を見せるルルエを鏡越しに見ながら、リリーシュは笑った。
「とにかく、私は粗相をしない様に当たり障りない振る舞いをするだけよ」
「いっその事気のある素振りを見せて期待させた所で、思いきり振ってやればいいんですよ!」
「まぁ、ルルエったら。そんな事を言ってはダメよ」
「私はあの態度が許せませんから」
プンとそっぽを向くルルエを可愛いと思いながら、リリーシュはルシフォールの仏頂面を思い出していた。
もしも殿下に意中の男性が居て、叶わぬ恋をしているのなら。したくもない女と我慢して食事をしながら、心の中でその人を恋焦がれているのなら。それはとても悲しい事だと、彼女は思う。
(私に何か出来る事があれば良いのに)
もうすっかりルシフォールにエリオットを重ねてしまっているリリーシュは、彼の幸せを願わずには居られなかったのだ。