裏稼業殺し屋の聖職者はうっかり取り憑かれた悪魔から逃げ切りたい!?
 何度も何度も繰り返し悪夢を見たような気がするが、覚醒する頃にはひどく朧げになっていて。
 意識が浮上したグレイはゆっくり目を開けた。

「……重っ」

 実際文句を言うほど重くはないが、ズタボロに切り裂かれたはずの腹部に何かが乗っている。
 グレイがそっと毛布をめくれば、拘束するように巻きつかれた白い腕と腹部に容赦なく乗せられた頭部が視界に入った。

「……悪魔って寝るのかよ」

 そこにいたのは猫のように身体を丸めた姿勢で、規則正しく呼吸を繰り返すパトリシアだった。
 思い返せば彼女が休んでいる所を見たことがない。
 かと言って四六時中片時も離れず側にいたわけでもないので、知らないだけでずっとこうだったのかもしれないが。

「俺は、悪魔について知らないことが多過ぎる」

 ターゲットを碌に調べもせず向かっていくなんて、仮にも殺し屋であるくせに愚策もいいとこだった。
 幾度目かの覚醒で、随分冷静さを取り戻したグレイは深いため息と共に猛省する。
 視線を流せば床には血塗れの包帯が山のように落ちているし、身体に巻かれた真新しい包帯の下の傷が痛む。
 きっとパトリシアがいなければあの場で呆気なく死んでいた。

「コイツについても、知らない……な」

 答えてくれるかは別だが、パトリシアについては目が覚めたら聞いてみることして、とグレイはじっと彼女を見つめる。
 中身が悪魔とはいえ、見た目十代の女の子といつまでも同衾しているのはいかがなものかととりあえずベッドから抜け出そうと試みるも。

「……力強ぇよ」

 びくともしない。
 しかも全く起きる気配がない。
 普段飄々としているくせに隙などほとんどないこの悪魔がすよすよと寝息を立てて寝ついている。
 びっくりするほど隙だらけ。
 あちらの世界で昼寝中に階級証(称号紋)を盗まれたと言っていた話の信憑性が増す。

「はぁ、もう」

 諦めてどさっとベッドに倒れ込んだグレイは、そのままの体勢で束の間の休息を取る事を選択する。
 が、どうにも眠れそうにない。
 目を閉じれば、あの夜の光景とユズリハが脳裏に浮かぶ。
 状況がいいとは言えないが、それでもユズリハは生きている。なんの手がかりもなかった十年に比べれば、格段に進展した。今はその事実だけあればいい。

「次、はきっと」

 負けないし、取り返す。
 手を伸ばしたグレイは起きない悪魔の淡いピンク色の髪を梳くように優しく撫でながら、

「お前のおかげだ。礼を言う」

 ぽつりと静かにつぶやいた。
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