【Guilty secret】
 埼玉のホテルに置いてあったシャンプーも入浴剤と同じ安っぽいローズの香りだった。

ローズの香りが消えてしまうと、丁寧に髪を洗ってくれた赤木の手の感覚も一緒に消えてしまいそうで、安っぽい香りが消えるのを寂しく感じながら芽依は髪を洗った。

 自宅の湯船に浸かっていても思い出すのは赤木との一夜のこと。今も下腹部には妙な違和感が残っている。
木曜日に初めて男を知った芽依の身体は、まだその感覚に慣れていなかった。

(赤木さん何してるかなぁ)

声が聞きたい。顔が見たい。今すぐにでも会いたい。

 風呂上がりにホットココアを飲む芽依を呼び止めたのは居間にいる父親だった。

ルノワールの“読書する女”のジグソーパズルがもうすぐ完成するらしく、居間の床にはほぼピースが埋まったジグソーパズルが置かれている。遠目から見れば絵画同然の仕上がりだった。

 父の話し相手を少しして自室に戻った彼女は、携帯電話のアドレス帳から赤木のメールアドレスを選択する。

デート後のメールとは、どのように打てばいいのだろう。ベッドの上で本文を書いたり消したり、内容の試行錯誤を繰り広げてやっとメールの文章が出来上がった。

〈デートとても楽しかったです。今から電話できますか?〉

これが芽依の精一杯。渾身の想いを込めて送信ボタンを押した。しかしメールは送信完了にはならず、代わりにエラーメッセージが表示された。

「おかしいな……宛先は赤木さんで合ってるのに」

 もう一度、メールアドレスの宛先が赤木になっていることを確認して送信ボタンを押すがまたエラーメッセージになった。嫌な予感がした芽依は赤木の携帯電話の番号に電話をかける。

{──おかけになった電話番号は現在使われておりません……}

携帯電話から流れてきた音声はコール音でも赤木の声でもなく、機械仕掛けの残酷なメッセージだった。
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