【Guilty secret】
同時刻の明鏡大学中庭。明鏡大学卒業生の松田宏文は中庭のベンチに腰を降ろして、きっちり締めていたネクタイを緩めた。
『あー……緊張した』
「お疲れ様でした」
明鏡大学4年生で松田の後輩の浅丘美月も彼の隣に腰掛ける。松田はベンチの背にもたれてペットボトルの飲料水を勢いよく飲み干した。
『就職セミナーに自分が呼ばれるとは思わなかった。噛まずにちゃんと言えてた?』
「バッチリでしたよ。先輩お得意のなんでもミステリーにしてしまうミステリー節も炸裂していましたね」
今日の午前中に学部の2年、3年を対象とした就職セミナーが行われた。セミナーには明鏡大学のOB、OGの講演もあり、松田はOB代表として登壇して在校生の前でマイクを握った。
学部4年の美月はセミナーの運営側に回って舞台袖で松田の講演を聴いていた。
彼がどのように就職活動を進め、どうして今の会社への就職を決めたのか、面接やエントリーシートでのアピールポイントや就職先ではどんな仕事をしているのか、すでに就職先の内定が出ている美月にとってもこれからの参考になる話だった。
『昼飯どうする? 久々に学食も悪くないけど。どこかに食べに出るとしてもこの時間だとどこも混んでるよなぁ』
「宮益坂《みやますざか》に新しく出来たテイクアウトのサンドイッチが美味しいですよ。あそこは皆ほとんどテイクアウトにしちゃうからイートインスペースが空いているんです」
『よしっ。美月のセレクトにハズレはないからね。そこに決まり』
ベンチを離れて正門に続く並木道を歩いていた美月と松田の側を女が通り過ぎた。すれ違った時には美月はその女の存在を特に気にも留めなかった。
「総合文化学部の清宮芽依さんのこと知ってる?」
だが後方からそんな声が聞こえて、彼女は足を止めて振り向いた。数メートル後ろにすれ違った女がいる。女は二人組の女子学生に話しかけていた。
美月よりもいくらか年上に見えるその女は紺色のジャケットにグレーのパンツスタイル、手にはメモ帳を持っていた。女に話しかけられた女子学生二人は戸惑いがちにかぶりを振って去っていく。
「先輩、お昼ご飯少し待ってもらってもいいですか?」
『いいよ。行っておいで』
美月の突拍子もない行動に慣れている松田は不服の顔も見せずに彼女を見守る。美月は道を引き返して、いまだメモ帳片手にうろつく女に近付いた。
「失礼ですがどちら様でしょうか。清宮芽依さんに何かご用ですか?」
「あなた、清宮さんの知り合い?」
「私の質問に答えてください。見たところ学校関係者ではなさそうですが、どちら様ですか?」
「ああ、ごめんなさい。私はこういう者です」
女は少々たじろいで美月に名刺を渡した。
美月は女の名刺をじっと見つめる。美月の横から松田も名刺を見下ろした。
『あー……緊張した』
「お疲れ様でした」
明鏡大学4年生で松田の後輩の浅丘美月も彼の隣に腰掛ける。松田はベンチの背にもたれてペットボトルの飲料水を勢いよく飲み干した。
『就職セミナーに自分が呼ばれるとは思わなかった。噛まずにちゃんと言えてた?』
「バッチリでしたよ。先輩お得意のなんでもミステリーにしてしまうミステリー節も炸裂していましたね」
今日の午前中に学部の2年、3年を対象とした就職セミナーが行われた。セミナーには明鏡大学のOB、OGの講演もあり、松田はOB代表として登壇して在校生の前でマイクを握った。
学部4年の美月はセミナーの運営側に回って舞台袖で松田の講演を聴いていた。
彼がどのように就職活動を進め、どうして今の会社への就職を決めたのか、面接やエントリーシートでのアピールポイントや就職先ではどんな仕事をしているのか、すでに就職先の内定が出ている美月にとってもこれからの参考になる話だった。
『昼飯どうする? 久々に学食も悪くないけど。どこかに食べに出るとしてもこの時間だとどこも混んでるよなぁ』
「宮益坂《みやますざか》に新しく出来たテイクアウトのサンドイッチが美味しいですよ。あそこは皆ほとんどテイクアウトにしちゃうからイートインスペースが空いているんです」
『よしっ。美月のセレクトにハズレはないからね。そこに決まり』
ベンチを離れて正門に続く並木道を歩いていた美月と松田の側を女が通り過ぎた。すれ違った時には美月はその女の存在を特に気にも留めなかった。
「総合文化学部の清宮芽依さんのこと知ってる?」
だが後方からそんな声が聞こえて、彼女は足を止めて振り向いた。数メートル後ろにすれ違った女がいる。女は二人組の女子学生に話しかけていた。
美月よりもいくらか年上に見えるその女は紺色のジャケットにグレーのパンツスタイル、手にはメモ帳を持っていた。女に話しかけられた女子学生二人は戸惑いがちにかぶりを振って去っていく。
「先輩、お昼ご飯少し待ってもらってもいいですか?」
『いいよ。行っておいで』
美月の突拍子もない行動に慣れている松田は不服の顔も見せずに彼女を見守る。美月は道を引き返して、いまだメモ帳片手にうろつく女に近付いた。
「失礼ですがどちら様でしょうか。清宮芽依さんに何かご用ですか?」
「あなた、清宮さんの知り合い?」
「私の質問に答えてください。見たところ学校関係者ではなさそうですが、どちら様ですか?」
「ああ、ごめんなさい。私はこういう者です」
女は少々たじろいで美月に名刺を渡した。
美月は女の名刺をじっと見つめる。美月の横から松田も名刺を見下ろした。