【Guilty secret】
 運転席から出てきたスーツの男が片手を挙げて手招きしている。赤木は警戒の面持ちで車に近付いた。

スーツの男はまだ若い。自分と同年代か、少し年下な気もする。この男は電話の主ではないと直感的に悟った。

男が後部座席の扉を開けた。ジェスチャーで中に入れと示され、赤木は渋々後部座席に乗り込む。

 後部座席にはもうひとり男がいた。こちらの男は眼鏡をかけていて、赤木よりもいくらか年上に見える。スーツを着ているがネクタイはしていない。

『電話をしてきたのはあなたですか?』
『わかっていることを聞くな』

眼鏡の男は赤木を横目で捉えて口元を上げた。

『ドライブの話し相手に付き合ってくれないか?』
『あなたは誰ですか? なんで10年前のことを……』
『話はドライブをしながらだ。日浦、出せ』

 スーツ姿の若い男の方は日浦と言う名のようだ。日浦の運転で車が滑らかに動き出した。

『まず先に言っておくが、俺は警察でもなければ記者でもない』
『では、その筋の方ですか?』

 眼鏡の男の服装や雰囲気は堅気の人間とは思えなかった。男は機嫌を悪くする素振りもなく何故か笑っている。

『その筋ねぇ。まぁさして違いはない。俺のことはどう解釈してもらっても構わないが、俺はお前の10年前の話に興味がある。2001年に小平市で起きた殺人事件の話だ』

どうしてこの男が10年前の事件に自分が関わっていると知っている?
記者ではないと言っていたが、あの女記者の差し金の可能性もある。赤木は警戒を強めて男を睨み付けた。

『そう怖い顔して睨むなよ。さっきも言ったが俺は刑事でも記者でもない。お前が10年前に何をしていても俺には関係のないことだ。ただお前が必死で守ろうとしているものについては、わからなくもない。俺もお前と同じだからな』

 流れる街の灯りが男の横顔を照らす。眼鏡の奥の瞳はここではない、どこか遠くを見つめていた。

『俺とあなたが同じ?』
『佐久間芽依を守っているんだろ?』

 現在の清宮芽依ではなく、男はわざと佐久間芽依と言ったのだろう。この得体の知れない男が何をどこまで掴んでいるか定かではない。

だが最初に比べて男への警戒は薄れていた。この男も自分と同じかもしれないと赤木も感じたからだ。

『……何を話せば?』
『なんでも。話したいことを好きなように話せ』

 どこにも向かっていない当てのないドライブ。夜の東京を走行する車内で赤木は昔話を語り始めた。
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