追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「ん? 距離が近くなると表情に少し反応が見られるな」

 ……いえ、それはただ単にあまりの距離の近さにビックリしただけです……!

思わず心の内だけで反論する。

細かな反応まで見逃さないと言わんばかりにマジマジと観察するように見つめられ、とても恥ずかしい。

身体がかあっと燃えるように熱くなってくる。

「今度は頬に赤みがさしてきたな。どうだ、治癒魔法に変化は?」

「あ、ありません……っ!」

 ……恥ずかしすぎる! もう無理……っ!

ついに耐えきれなくなったわたしは、レイビス様の視線から逃れるように目を逸らして顔を伏せた。

時間にして数分のことであったと思うが、治癒魔法を一日中使っていた時以上の疲労具合だ。

わたしは今まで経験したことがない体のぐったり感に包まれていた。

「なぜ視線を逸らす?」

「な、慣れないことでもう限界でして……」

「ちょうど反応が見られてきた矢先だったからもう少し続けたいところだが。まあ、いい。今日は初回だからな」

「それでその、今回の実験は一体……?」

「恋人といえば、身体的に近い距離感で見つめ合っているだろう? 今日はそれを試してみた。治癒魔法に変化はなかったが、初回にしては良い反応も見られたと言えるだろう。いい滑り出しだ。やはり距離感は重要なようだな」

レイビス様は自分の頭の中を整理するように、やや左上に視線を向けながらわたしに考察をつらつらと述べていく。

そして「次回は身体的接触も試してみるか」とポロリと漏らした。

 ……し、身体的な接触⁉︎ 今日の見つめ合うという実験ですらこの状態なのに。わたし、耐えられるかな……?

実際にこの特殊な実験の初回を経て、わたしはますますこれからの先行きが不安になった。

でももう謝礼も頂いているし、なによりこれは治癒魔法を再び取り戻すための実験だ。

突然失われた治癒魔法が再び使えるようになれば、怪我や病気で苦しむ多くの人々を癒し救うことができる。

 「ありがとう」と笑顔を向けてくれた人々を思い出すとまた力になりたいという気持ちが溢れてくる。

 ……少しでも可能性があるのなら試さない手はないものね。

なにしろ他でもない王国内随一の天才エリート魔法師様が掲げる仮説なのだ。

全く手立てがない今、この実験は唯一の希望だった。

こうして、一回目の実験を終え不安と疲労を抱えつつも、わたしはこの実験を継続する覚悟を決めたのだった。
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