恋は揺らめぎの間に
「二人とも〜。 準備出来た?」
「はーい!」
バタバタと荷物を持って玄関へ走る。
「おはよう慶人君!」
「おはよう静香ちゃん。 牧瀬君も、おはよう。」
寝起きの悪い慎司君は、おはようと小さな声で答える。テストと終わり、大学は夏休みに入った。そして今日から、楽しみにしていた旅行なのだが……
「珍しいね、寝坊なんて。」
「あはは…。」
ちらっと、寝坊の原因である慎司君を見る。ミモザに込められた意味を確認した夜から、慎司君は少し変わった。今まで隠していただけなのか、一線を越えたことによるものかはわからないが、愛情の表し方が異常に……
「っ…。」
「? 静香ちゃん、大丈夫?」
昨晩…というより、今朝もほんの少し前まで、私の名前を何度も呼びながら、好きだと言ったり可愛いと言ったり…何度も、何度も、執拗に、私を求めていた慎司君の顔を思い出す。
ねっとりと、絡みつく視線。触れているところから熱で溶け合って一つになっていくような、あの感覚。
私の荷物を持って、後から歩いてきている慎司君と目が合う。たったそれだけで、ぞくりとする。身体中に生々しく残る、愛された痕跡が、慎司君をまた求めようとするのだ。
「い、いい天気だから暑くて…っ。」
赤く火照る身体をパタパタと手で仰ぎ、なんとか誤魔化そうとするが、慎司君にはバレているかもしれない。
「お待たせ〜…って、どうしたの? 二人とも。」
階下には高橋君が車を停めて待っていた。後部座席には一華ちゃんもいたが…
「どうしたの?」
二人はブスッとした顔で、お互いそっぽを向いていた。喧嘩でもしたのだろうか。かなり、空気が悪い。
一華ちゃんは後で話すと言って、窓の外に視線をやってしまった。
「牧瀬、サービスエリアで運転交代だからな。」
「静香が助手席に来るならいいけど。」
「じゃあ慶人が真ん中な。」
「え? いいけど… 後ろが狭くなるよ?」
高橋君もなんだか機嫌が悪そうだ。