Deception〜私たちの恋の裏にはそれぞれの思惑が渦巻いている〜
***
深夜零時すぎ。入院患者のいない病室のベッド下で黒い影がうごめいた。それはそろりと動き出し、四つん這いのまま病室の扉へと向かう。
首を振り、廊下の左右を確認するのはひとりの不審な男だっだ。日中に訪れた病院内にひそみ、ベッド下で看護師たちの会話を盗み聞きながら巡回のない時間帯を今か今かと待っていた。
足音を立てないよう細心の注意を払い、四階へと移動する。
非常口を知らせる緑色の光がリノリウムの床に反射して不気味な光景を演出している。けれど男は少しも怯まなかった。自分を突き動かすのは愛だった。何としてでもやり遂げねばならない。
目的とする404号室へたどり着く。なにをどうすればいいのか、てんで分からないけれど。要はここにいる入院患者を死なせてしまえばいいのだ。
そうすれば愛する彼女、浅倉想乃の負担は激減し、今よりもっと元気になるだろう。男はそう信じていた。
廊下の左右を確認してから扉の取手に触れ、そのまま静かにスライドさせようとした。
「ちょっとそこのあなた! なにやってるんですか!」
突如として右側から強い光線を浴びせられた。懐中電灯で照らされていると知り、男は泡を食ってただちに逃げ出した。「待ちなさい!」と背後に女性看護師の声を聞いた。
懐中電灯を照らした看護師は、恐怖から身を震わせる。不審な人影に驚き、足がすくんで動かなかった。
「404号室……あの人の言ったとおりだわ」
看護師の女性はナースウェアのポケットに入れていた名刺を取り出す。中央には『並樹 慧弥』の名前が印刷されていた。
深夜零時すぎ。入院患者のいない病室のベッド下で黒い影がうごめいた。それはそろりと動き出し、四つん這いのまま病室の扉へと向かう。
首を振り、廊下の左右を確認するのはひとりの不審な男だっだ。日中に訪れた病院内にひそみ、ベッド下で看護師たちの会話を盗み聞きながら巡回のない時間帯を今か今かと待っていた。
足音を立てないよう細心の注意を払い、四階へと移動する。
非常口を知らせる緑色の光がリノリウムの床に反射して不気味な光景を演出している。けれど男は少しも怯まなかった。自分を突き動かすのは愛だった。何としてでもやり遂げねばならない。
目的とする404号室へたどり着く。なにをどうすればいいのか、てんで分からないけれど。要はここにいる入院患者を死なせてしまえばいいのだ。
そうすれば愛する彼女、浅倉想乃の負担は激減し、今よりもっと元気になるだろう。男はそう信じていた。
廊下の左右を確認してから扉の取手に触れ、そのまま静かにスライドさせようとした。
「ちょっとそこのあなた! なにやってるんですか!」
突如として右側から強い光線を浴びせられた。懐中電灯で照らされていると知り、男は泡を食ってただちに逃げ出した。「待ちなさい!」と背後に女性看護師の声を聞いた。
懐中電灯を照らした看護師は、恐怖から身を震わせる。不審な人影に驚き、足がすくんで動かなかった。
「404号室……あの人の言ったとおりだわ」
看護師の女性はナースウェアのポケットに入れていた名刺を取り出す。中央には『並樹 慧弥』の名前が印刷されていた。