ヤンキー高校のアリス

【騎士団】との抗争

 そんなこんなで朝からぼんやりしていると、朝のお迎え担当の足立くんがやってきて、ひとりブランコをこいでいるわたしをのぞき込んだ。

「おーいありす。行くぞ」
「……うん」
「元気ねーな。どうした?」

 千住くんのことに加えて八王子くんのことも頭の中に侵入してきて居座ったまま出て行ってくれません。……とは、やっぱり言えないよね。
 勉強もおろそかになってる気がするし、いったん二人のことは忘れたいんだけど、……とうとう昨日夢に出てきた。千住くんも八王子くんもタキシード着てた。
『おひい』
『姫』

 って――いかんいかん。少女漫画脳が爆発してるぞ。ありす。これ以上はだめ。妄想にもほどがあるでしょう。
 というか、わたしがそういう風に、大事にされるのは、ちょっとなんか違うというか。こそばゆいというか、居心地が悪いというか、なんというか。

「……祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声……」

「ん? なんだっけそれ。ちょっと聞いたことある」

「諸行無常の響きあり……」

 そうだ、おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし! 
 
 今がどんなに良い感じでもそれは春の夜の夢みたいに儚いものなんです! つまり!

「あれらはいっときの夢!」
「どうしたんだよありす……」
「すっきりした!」
 うん。そうです。納得した。すっきり!

 わたしは弾みをつけて立ち上がり、足立くんを見つめ返した。
「行こっか!」
「う、うん」
 
 足立くんはわたしの顔を見つめてびっくりしたみたいに動きを止めた。今度はわたしが聞く番だ。

「どうしたの?」
「いや……なんでもない。ありす、あのさ」
 足立くんは頬を掻いた。

「昔のことって覚えてる?」
「昔のこと?」
「小一くらいのときのこと」
 

 昔のこと。わたしは言われてみて、そのあたりだけ変にもやがかかったように思い出せないことに気づいた。

「小一……なんか、なんでだろ。全然思い出せない」

 たしかまだお父さんが生きていた頃で。幸せで。……すごく楽しくて。楽しかった事だけはわかる。でも細かいことは全然、わからない。友達とか、クラスの光景とか。

「新しいランドセルが嬉しかったことは、覚えてるな……でも他は全然」

「そうか。――ならいいや」

 足立くんは歯を見せて笑った。けどどこか曇った笑顔だった。わたしが知っている、からっとした晴れ空のような足立くんじゃなかった。
 

※ ※ ※


 教室に入ったわたしが予習のために教科書を開いていると――不意に、放送のチャイムが流れ出した。

『あー。マイクテスト。こちら、【騎士団】、【騎士団】だ』

「【騎士団】!?」
 周りの生徒たちがにわかに騒ぎ出す。当然、騎士団は三年生のヤンキー軍団。麗華直属の、女王を守る騎士たちだ。

『一年、足立ルイス。千住白兎、八王子縞。そして【姫】。おれらはお前らに、宣戦布告する』

「えっ」
 なんかしれっと混ざってない? わたし。

『放課後、体育館裏に来い。以上』

そうして放送は途切れた。
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