〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
捜査に出掛ける美夜と九条を見送った本部待機組の真紀と杉浦は、現時点で集まった被害者二名の情報をホワイトボードに書き込んでいた。
第一の被害者、初瀬明日美が殺害されたのは3月29日。明日美は19時に鶯谷《うぐいすだに》のラブホテルを客より先に出た。
人気デリヘル嬢だった彼女の次の予約は20時に池袋駅。最寄りの鶯谷駅前で迎えの車が明日美を待っていた。
しかし待ち合わせの時間になっても現れない明日美を不審に思った送迎車のスタッフが明日美のスマホに連絡したが応答はなく、翌朝にホテル街の谷間にある台東区根岸一丁目の神社の境内で明日美の死体が発見された。
第二の被害者、前田絵茉は豊島区在住の大学三年生。
絵茉が所持していた交通系ICカードでは21時半から22時にかけて渋谷駅と自宅最寄りの駒込《こまごめ》駅でそれぞれ利用の記録がある。
渋谷から駒込までの所要時間は乗り換えを挟んで30分だ。
明日美、絵茉ともに後頭部に殴打の痕跡あり。気絶した被害者を人気《ひとけ》のない場所に連れ込み扼殺《やくさつ》した後、腹部に十字の切り裂き傷をつけている。
二人とも服を脱がされているが、強姦の形跡はない。財布の現金やカード類も手付かずだった。
『あの二人をバディに組ませたのは何故ですか? 神田と九条は性格も対照的に見えますし、バディとしてはやりにくいのでは……』
作業途中で杉浦が尋ねた。彼は昨年度まで上野恭一郎が率いていた第二特殊犯捜査係に所属していた。
上野の捜査一課長就任により特殊犯捜査係は解散、杉浦は新しくチームを任された真紀の補佐役となった。
「神田さんと九条くんは所轄時代に合同捜査で顔見知りだった分、打ち解けるのは早かったよ。二人を組ませると決めたのは上野一課長なの。“早河さん”、覚えてる?」
『もちろんです。早河さんのお子さんも、あれからお元気にされていますか?』
「早河家は皆元気にしてるよ。神田さんが警視庁に配属された当時の早河さんに似てると一課長は言ってた。私も妙に納得しちゃったんだよね。神田さんはあの頃の早河さんっぽい」
早河仁《はやかわ じん》は警視庁捜査一課の元刑事。現在は警察を辞めて探偵を生業《なりわい》としている彼は、捜査一課長の上野恭一郎と真紀の昔馴染みだ。
(※前作【早河シリーズ】主人公)
「彼らが配属されて2週間、側で見てきたけど神田さんは誰にも心を開いていない、自分を閉じている人。対照的に九条くんは正義感に満ち溢れてギラギラしているじゃない?」
『確かに。九条は中学生の時にひったくりを捕まえて表彰されたことがきっかけで、刑事を目指したって言っていましたね』
「九条くんの動機はベタだけど悪くはないよね。神田さんには、いつか九条くんの存在が助けになる。一課長はそう思ってるみたい」
神田美夜と九条大河は人間性も刑事のスタンスも真逆だ。
美夜は事件を冷静に客観視できる能力を備える一方、被害者にも加害者にも情を入れない。
九条は被害者と加害者の両方に肩入れし過ぎる傾向があるが、持ち前の度胸と正義感は刑事として高いポテンシャルを秘めている。
まるで早河仁と、そのバディであった香道秋彦《こうどう あきひこ》を見ているようだった。
第一の被害者、初瀬明日美が殺害されたのは3月29日。明日美は19時に鶯谷《うぐいすだに》のラブホテルを客より先に出た。
人気デリヘル嬢だった彼女の次の予約は20時に池袋駅。最寄りの鶯谷駅前で迎えの車が明日美を待っていた。
しかし待ち合わせの時間になっても現れない明日美を不審に思った送迎車のスタッフが明日美のスマホに連絡したが応答はなく、翌朝にホテル街の谷間にある台東区根岸一丁目の神社の境内で明日美の死体が発見された。
第二の被害者、前田絵茉は豊島区在住の大学三年生。
絵茉が所持していた交通系ICカードでは21時半から22時にかけて渋谷駅と自宅最寄りの駒込《こまごめ》駅でそれぞれ利用の記録がある。
渋谷から駒込までの所要時間は乗り換えを挟んで30分だ。
明日美、絵茉ともに後頭部に殴打の痕跡あり。気絶した被害者を人気《ひとけ》のない場所に連れ込み扼殺《やくさつ》した後、腹部に十字の切り裂き傷をつけている。
二人とも服を脱がされているが、強姦の形跡はない。財布の現金やカード類も手付かずだった。
『あの二人をバディに組ませたのは何故ですか? 神田と九条は性格も対照的に見えますし、バディとしてはやりにくいのでは……』
作業途中で杉浦が尋ねた。彼は昨年度まで上野恭一郎が率いていた第二特殊犯捜査係に所属していた。
上野の捜査一課長就任により特殊犯捜査係は解散、杉浦は新しくチームを任された真紀の補佐役となった。
「神田さんと九条くんは所轄時代に合同捜査で顔見知りだった分、打ち解けるのは早かったよ。二人を組ませると決めたのは上野一課長なの。“早河さん”、覚えてる?」
『もちろんです。早河さんのお子さんも、あれからお元気にされていますか?』
「早河家は皆元気にしてるよ。神田さんが警視庁に配属された当時の早河さんに似てると一課長は言ってた。私も妙に納得しちゃったんだよね。神田さんはあの頃の早河さんっぽい」
早河仁《はやかわ じん》は警視庁捜査一課の元刑事。現在は警察を辞めて探偵を生業《なりわい》としている彼は、捜査一課長の上野恭一郎と真紀の昔馴染みだ。
(※前作【早河シリーズ】主人公)
「彼らが配属されて2週間、側で見てきたけど神田さんは誰にも心を開いていない、自分を閉じている人。対照的に九条くんは正義感に満ち溢れてギラギラしているじゃない?」
『確かに。九条は中学生の時にひったくりを捕まえて表彰されたことがきっかけで、刑事を目指したって言っていましたね』
「九条くんの動機はベタだけど悪くはないよね。神田さんには、いつか九条くんの存在が助けになる。一課長はそう思ってるみたい」
神田美夜と九条大河は人間性も刑事のスタンスも真逆だ。
美夜は事件を冷静に客観視できる能力を備える一方、被害者にも加害者にも情を入れない。
九条は被害者と加害者の両方に肩入れし過ぎる傾向があるが、持ち前の度胸と正義感は刑事として高いポテンシャルを秘めている。
まるで早河仁と、そのバディであった香道秋彦《こうどう あきひこ》を見ているようだった。