〜Midnight Eden〜 episode1.【春雷】
階段を降りて来たのは黒髪のボブヘアの若い女。ひじきのようなバサバサとした睫毛の奥の瞳が伶を捉えると、天ぷらを食べた後みたいなテカテカとした唇がニッと上がった。
「また会ったね」
『……どうも』
伶は軽く頭を下げた。
以前に父親がこの女を連れて帰宅した時、伶はリビングにいた。舞は二階でピアノの練習をしていたから、家を訪れた女の存在を知らない。
この女を伶は何度も見たことがある。学校の帰り道、父の運転する車からこの女が降りてくる場面を伶は見ていた。父親とこの女が唇を接触させていた瞬間も、伶は目をそらさずに目撃していた。
「さっきまで家に居なかったけど、どこかに出掛けてたの?」
『妹と駅前まで……』
伶は言葉少なげに答える。舞をファミレスに連れ出したのは、ここで何が行われるか知っていたから。
父とこの女が家で何をするのか、伶にはわかっていたから。
「私のこと、お父さんから何か聞いてる?」
『別に何も。聞かなくても、お姉さんが父と何をしていたのかは知っています』
アニマル柄のミニスカートから伸びる女の脚は肉付きがよく、ほどよく日に焼けた太ももが妙に艶《なまめ》かしい。
ピッタリとした素材の薄手のニットからは胸の大きさや形がよくわかり、女の身体の生々しさに、治まっていた下半身の膨らみがまた湧いてくる感覚があった。
「まだ小学生なのに大人っぽい話し方するんだね。名前、伶くんだったよね。何歳?」
『10歳ですけど』
自己紹介もしていないのに、女は伶の名前を知っていた。おそらく、“あの男”に聞いたのだろうと伶は察する。
伶は下半身の膨らみを理性で必死に抑えつけた。
「あーあ。君があと10年早く生まれていたらなぁ。絶対に私好みだったのに」
『は?』
「君が私より年上だったらよかったのにって話。そうしたら、私はお父さんじゃなく君を選んでいたよ。またね。お邪魔しましたぁ」
またね、と言った時に女の手が伶の頭に触れた。赤いマニキュアの塗られた手で、いやらしく撫でられた髪を今すぐ洗いたい衝動に駆られる。
女が去った後の玄関には安っぽい香水の匂いが漂っていた。
汚い。汚らわしい。醜い。
伶はあらゆる罵詈雑言を心の中で吐き捨てて階段を駆け上がる。
部屋に戻った伶を迎えたのは、妹の舞の天使のような微笑みだった。
「また会ったね」
『……どうも』
伶は軽く頭を下げた。
以前に父親がこの女を連れて帰宅した時、伶はリビングにいた。舞は二階でピアノの練習をしていたから、家を訪れた女の存在を知らない。
この女を伶は何度も見たことがある。学校の帰り道、父の運転する車からこの女が降りてくる場面を伶は見ていた。父親とこの女が唇を接触させていた瞬間も、伶は目をそらさずに目撃していた。
「さっきまで家に居なかったけど、どこかに出掛けてたの?」
『妹と駅前まで……』
伶は言葉少なげに答える。舞をファミレスに連れ出したのは、ここで何が行われるか知っていたから。
父とこの女が家で何をするのか、伶にはわかっていたから。
「私のこと、お父さんから何か聞いてる?」
『別に何も。聞かなくても、お姉さんが父と何をしていたのかは知っています』
アニマル柄のミニスカートから伸びる女の脚は肉付きがよく、ほどよく日に焼けた太ももが妙に艶《なまめ》かしい。
ピッタリとした素材の薄手のニットからは胸の大きさや形がよくわかり、女の身体の生々しさに、治まっていた下半身の膨らみがまた湧いてくる感覚があった。
「まだ小学生なのに大人っぽい話し方するんだね。名前、伶くんだったよね。何歳?」
『10歳ですけど』
自己紹介もしていないのに、女は伶の名前を知っていた。おそらく、“あの男”に聞いたのだろうと伶は察する。
伶は下半身の膨らみを理性で必死に抑えつけた。
「あーあ。君があと10年早く生まれていたらなぁ。絶対に私好みだったのに」
『は?』
「君が私より年上だったらよかったのにって話。そうしたら、私はお父さんじゃなく君を選んでいたよ。またね。お邪魔しましたぁ」
またね、と言った時に女の手が伶の頭に触れた。赤いマニキュアの塗られた手で、いやらしく撫でられた髪を今すぐ洗いたい衝動に駆られる。
女が去った後の玄関には安っぽい香水の匂いが漂っていた。
汚い。汚らわしい。醜い。
伶はあらゆる罵詈雑言を心の中で吐き捨てて階段を駆け上がる。
部屋に戻った伶を迎えたのは、妹の舞の天使のような微笑みだった。