副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜


「専務、ここはお客様も使用する廊下ですよ。あと、その発言はセクハラです」


バックヤードの入り口が開いて、副社長の秘書である荒木大成さんが顔を出した。


「おぉ、荒木くん。副社長は今日、名古屋じゃなかったかな? いつもと同じく、金魚の(ふん)のようにくっついて行かなくて良いのか?」

「私も沢山仕事を抱えておりまして。専務のように、ゆっくりホテルで寛げたら良いのですが」

「ふん、口を慎め。私はとても忙しいんだ。おい、行くぞ」


水嶋専務は自分の秘書に声をかけて、ズンズンと歩いていった。秘書は秘書で、荒木さんのことをキッと睨みつけて去っていく。


「倉田さん、大丈夫ですか?」

「荒木さん、ありがとうございます。でも、どうしてこちらに?」

「副社長に倉田さんのことを頼まれていたんで。あと、水嶋専務は色々と怪しい点が多くて調べてるんですよ。おっと、ここでは詳しく話せないので、また後ほど。今日はそろそろ仕事終わりですよね?」

「はい、今日は連泊のゲストが多くて、遅番が忙しいので手伝ってますが。そろそろ上がります」

「そうですか。今日は副社長のマンションまで、車で送りますよ」

「え、そんな、悪いです。家も近くなりましたし。って、飛鳥さんのマンションに住んでることもご存知なんですね」

「はい、送迎は副社長命令なので。送りながら色々話しましょう」


その後、平さんと合流して、早々にランドリーを配り終えることができた。今日は1時間ほどの残業で済んだので、ホッとする。

(明日も早番だから、早く帰って寝なきゃ…)


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