The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
さて、カレーは良いとして。

カタログ、持って帰ってきてたんだよな。俺。

「フューニャ、フューニャ。これ、ちょっと見てくれ」

「何ですか?」

てこてこと寄ってきたフューニャに、カタログを開いて見せた。

「浴衣。知ってるか?」

「浴衣…。聞いたことはありますね。着たことはありませんけど」

無理もない。箱庭帝国には、絶対になかっただろうし。

「これ、着てみないか?」

「え…?」

「今度、帝都主催の花火大会があるんだ。結構な規模でな。一緒に行かないか?二人で浴衣を着て」

「…!」

フューニャは、きらんっ、と目を輝かせた。

よしよし、掴んだようだ。

「…仕方ありませんね。ルヴィアさんがどうしてもと言うなら…ついていってあげましょう。私は貞淑で従順な良い妻なので」

「うんうん。ありがとうフューニャ」

本当にお前は、良い妻だよ。

しかも可愛いと来た。

「どんな浴衣にする?フューニャならどれでも似合うと思うけど」

「…ルヴィアさんは、私にどんな浴衣を着て欲しいですか?」

どんな浴衣を着て欲しい…か。

ぶっちゃけ、本当フューニャは可愛いから、どれ着ても似合うと思うんだけど。

「そうだな…。この淡い青色の浴衣なんか、可愛いんじゃないか?あ…このオレンジも可愛い。…待てよ、こっちのピンクも捨てがたいか。でもピンクよりは赤…。同じ赤でも、この牡丹模様の方が似合うか。いや待て、それよりこっちの薄紫の方が…」

「ルヴィアさんったら。全然絞れてませんよ?」

フューニャは、苦笑しながらそう言った。

「…しょうがないじゃん…。本当にどれ着ても可愛いんだからさ…」

「どれが一番好みです?」

「…」

…究極の選択だな、それは。

全然どれ着ても似合うだろうから、どれも着て欲しいくらいだが。

強いて言うなら…。フューニャには、あんまり派手なものよりも。

「…この、ちょっと大人っぽい薄紫かな」

「分かりました。じゃあ、それにします」

いや、ちょっと待て。

「俺の意見より、フューニャが着たいのを選んでくれよ。俺はどれでも良いんだから」

どうせフューニャは何着ても似合うって分かってるんだから。

折角なら、フューニャが着たいものを着て欲しい。

メンズの浴衣はあんまり種類ないけど、女の子の浴衣は、皆それぞれこだわりがあるはずだ。

「いいえ、私もそれが良いんです。ルヴィアさんが選んでくれたものを、私は着たいんです。だから、その薄紫にします」

フューニャはきっぱりと言った。

「…良いのか?」

「えぇ。良いです」

…まぁ、フューニャがそれで良いって言うなら…良いか。

後になって、やっぱりこっちの方が良いや、ってはればそっちに替えれば良いし。

「じゃ、これを注文しよう」

「はい」

「俺はどれにしようか。メンズはあんまり種類ないけど…フューニャ、選んでくれるか?」

「仕方ないですね。見てあげましょう」

ありがとう。

メンズの浴衣なんて、女の子のフューニャは眺めてても楽しくないだろうに。

フューニャはいつになく嬉しそうに、俺の浴衣を吟味してくれた。

フューニャが楽しそうだから、俺も楽しい。

良いもんだなぁ、浴衣って。

カタログをくれた、ルレイアさんに感謝である。
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