コイワズライ

ーー数日後、休み時間に食堂近くの自販機に行くと(さく)先輩にばったり会った。


「あ」


「あぁ、伊吹(いぶき)千晃(ちあき)の…」


以前会った時のようにやんわりと微笑む先輩のベストには、私がぶっかけたカレーのシミが見当たらない。


「こんにちは、先輩カレーとれたんですか!?」


「うん、何度も洗濯してやっとね」


「あぁぁ、ごめんなさい!」


「洗濯したのは母さんだから俺はなにもしてないけど」


「あぁぁ、お母さんごめんなさい!」


話をしながら自販機に小銭を入れてピッとボタンを押す。先輩がかがんで飲料を取り出していると、自販機がピカピカ光りだした。


「先輩、当たってますよ!」


「え、マジで?ーーわっ、本当だ。押して押して!」


「えーどれですか!?」


あわあわと慌てて適当にボタンを押した。出てきたのはホットのミルクティー。


「それ飲まないからあげる!じゃあね」


「へ?あ、先輩!?」


慌てて走り去ってしまった。


***


「ーーっという経緯で、このミルクティーが私の手元にあるのです!」


教室に戻った私はさっきの出来事を2人に話し、ジャーンとミルクティーを見せびらかした。


「いらない物を体良く処分しただけだろ」


スマホをいじりながら話半分で聞いていた伊吹(いぶき)がケッと捻くれた笑いを浮かべて嫌味を吐く。


「違うも~ん!私に譲ってくれたんだも~ん」


「中学の時もよくジュースおごってくれたな~」


「ほら~やっぱり(さく)先輩は優しいんだよ~」


新奈(にいな)、この間から(さく)先輩にメロメロだね」


「だってね、初めて会った時キラキラしてたんだよ!笑顔も素敵だったしーー」


バンッと机を叩いて私を睨み付け、くっだらねぇとぼやいて教室を出て行った。


「なんで怒ってんの?」


「ん?あぁ、まぁ思春期だから」


「もしかして2日目?」


「そうかもね~バ○ァリンわけてあげたら?」


「……千晃(ちあき)って女子なの?」
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