こっから先ははじめてだから

 満員電車の中。どうやって次の駅で降りようかとそわそわしていた。

 すると先輩が、冷淡冷徹じゃない顔でささやいた。


「刈谷さん、どこの駅で降りるん?」

「あ、つ、つぎの駅です。」

「ん。」


 たった一文字が、刈谷に憎いトキメキをもたらす。

 無表情じゃない顔で見下ろす、柔らかい顔。

 こんなに密着して、こんなに見下ろされてるのに。世の中捨てたもんじゃないね。

 それほどそんなに怖くないんだもん。けど緊張はMAXだよ?

 舐めないで欲しかった恐怖症は、きっと今だけいい子に留守番してるはず。

 なあんて思ってたら、どうしよう。

先輩も一緒にその駅で降りちゃって、私はどうしていいやら。とりあえずお礼とお詫びを伝えることに成功した。


「あ、ありがとうございます! それと、すみません。」

「いいえ。勢い余って俺も降りてしもて。」

「ああ、あの、ほんとうにごめんなさッ」

「必死? ふはっ。刈谷さん、ええ子やね。」


 男の人の笑顔って。こんなに可愛いやつだったのかあ。

 憂先輩の笑い顔に圧倒されちゃって、思わず穴が空くほど見惚れちゃう。
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