異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
(優しい人だといいなぁ……)

 ロルティの聖なる力は傷を癒やすことにしか使えない。
 悪者を懲らしめることはできないため、悪人とは相性が悪いのだ。

 神殿での暮らしを思い出した彼女の表情が曇る。
 不安になったロルティがアンゴラウサギを抱きしめる力を強めれば、ジェナロの行く手を阻む、ある人物が現れた。

「父さん」

 ロルティはジェナロのことを父と呼んだ少年を、じっと見つめた。

(……どうして、パパを呼ぶの……?)

 年齢はロルティよりも、数歳年上だろうか。
 ジェナロと瓜2つの金色の髪をしている。
 違いがあるとすれば、彼の瞳が髪の毛と同じ色をしていることくらいだ。

「彼女が、僕の妹ですか」
「そうだ」

 彼女に訝しげな視線を向ける少年に、父親が声をかける。

 ジェナロは抱きかかえていたロルティを地面に下ろすと、彼女の腕の中にいたアンゴラウサギを奪い取り、背中を押した。

 つまり、きちんと面と向かってこの少年に挨拶をしろと言うことだろう。

「わ、わたし……。ロルティ……」

 スカートの裾を握りしめるために動かした手と、声が震える。

 目の前にいる少年の声には、明らかな敵意があった。
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