黒澤くんの一途な愛
透くんが声をひそめ、唇を私の耳元に近づけてくる。
「あのさ、この前本屋で一緒にいた男子って……もしかして、栞里ちゃんの彼氏?」
「えっ!」
まさか黒澤くんとのことを聞かれるとは思わず、心臓がドキッと小さく跳ねた。
「えっと、うん。彼氏……だよ」
この間、黒澤くんのお弁当を届けに来た南実さんに彼女かと聞かれて否定したら、あとで黒澤くんに怒られたから。
ここは否定したい気持ちを堪えて、ひとまず肯定する。
「彼氏……そうなんだ」
透くんの表情が、わずかに曇る。
「栞里ちゃんには悪いけど、あの人とはあまり仲良くしないほうが良いよ。できれば、別れたほうが良い」
「えっ。どうして?」
「あいつ、ケンカが絶えないやばい奴だって有名だし。俺は、栞里ちゃんがあいつと付き合うことで、危険な目に遭って欲しくないんだ」
ケンカが絶えないやばい奴……か。
黒澤くんは、そういう人じゃないのにな。
けど、優しい透くんのことだから。
きっと私のことを、心配して言ってくれてるんだよね。
「ありがとう、透くん。でも、黒澤くんはああ見えて優しいから。大丈夫だよ」
彼の言葉にほんの少し違和感を覚えながらも、私はとりあえずお礼を伝えた。