名も無き君へ捧ぐ

君の正体


誕生日の翌日。
本当なら、今日を迎えることなんてないと思っていた。


おかしな世界に入り込んでしまったせいだろうか。



洗面台にぼーっと突っ立っている私の背後で、ひょこっと顔を出す男の人が鏡に映る。
万が一、夢だったかもしれないなんて、一瞬でかき消された。


なぜ自分のツヤツヤの髪を仕切りに気にするのか。

気にする必要など無いだろうに。
ユーレイなんだから。

むしろ私のボサボサの髪の方が酷い。


「あの、守護霊って、ずっと一緒なんですよね」

「はい。任務なんで」

「ずっとですか」

「ずっとですね」

言葉を返す度に鏡で髪の毛を気にする。


「邪魔ですか?」

「邪魔っていうか…、ずっと一緒にって気になるっていうか」

「気になりますよねー。だから、通常見えないんです。見えないのが当然です。でも、今緊急事態なんで」

「昨日から言ってるその緊急事態って何?」


ギロっとクリクリの目で私を睨んでくる。
可愛くて凄みに欠けるのが救いか。

「自覚無しですね」

「…分からないよ!何が起きてるのか。危険な目に遭いそうになってる気はするけど」


「そこですよ。なぜ危険な目に遭いそうになっているか。ご自分でよーく考えてください。僕がわざわざいうことでも無いので」


またカチンと来ること言う。
うんざりして私はもう無視することにした。
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