名も無き君へ捧ぐ
第3章
心の空っぽ
仕事を終え、足早に駅に向かう。
次の電車が来るまであと10分。
ホームドアの前にずらりと行列が出来ている。
ふぅーと、ため息と同時に呼吸を整える。
何もかもどうでもよくなったあの日のことを、ふいに思い返していた。
特にこれといって、大きな何かがあったわけじゃない。
淡々と過ぎていく日常。
それが一番いい。
本当なら。
友達と呼べる人なら数人いた。
けれどそれぞれ恋人ができ、結婚していく中で唯一私が残ってしまったのだ。
タイミング的に付き合っていた彼ともほどなくして別れた。
3年付き合い、結婚も見据えての別れはわりと響いた。
友人達とお互いの生活環境が変わり、何となく疎遠になっていき、会う頻度は少なくなっていった。
そんな中、当然のように時間が過ぎていく日常で気がついてしまったのだ。
自分には何もないのだと。
取り分け好きなこともなく、夢中になれる推しもない。
趣味に費やすこともない。
全て空っぽだった。
テレビから聞こえる音は無機質で、心が動かされることは到底ない。