【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
「他に汚されているものはある?」
「たくさんありましてよ。わたくし、嫌われているから」
「……堂々と言うなぁ」

 感心したようにレグルスさまにつぶやかれる。教室内はしんと静まり返っている。結構な人数がまだ残っているので、彼のつぶやきも耳に届いていることでしょう。『マーセル』がこんな扱いを受けていることを、この教室で知らない人はいないから、聞き耳を立てているでしょうね。

「傷つかないの?」
「品性がないと呆れるだけですわ。仮にも貴族という身分なのに、このような低俗な嫌がらせをするなんて。嫌がらせの証拠を握ったところで、男爵という身分上、証明するのは難しいでしょう? そういうのをもみ消すのが得意なところもありまし。……ですが、一度嫌がらせをしているときの顔を鏡でご覧になりなさい? とても(みにく)い顔をしていましてよ」

 教室に残っている人たちを見渡しながら言葉を紡ぐと、レグルスさまは意外そうにわたくしを見て、それからふっと微笑みを浮かべた。

 その表情がとても優しくて、なぜかドキッとした。そして、「汚れているの、机に出して」と言われたので、小首をかしげながらテキストとノートを机に並べる。

「きれいにしてあげるよ、いろいろね」

 レグルスさまが机の上に並んだテキストとノートに向かって、パチンと指を鳴らした。すると、テキストやノートの汚れや罵詈雑言が浮かび上がり、それぞれ教室にいる人たちに向かっていった。
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