【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
 物心ついたときから、家族はわたくしに冷たかった。一人だけ、公爵家の顔じゃないと言われ続けてきた。髪色も、面立ちも、瞳の色も……どこを見ても、公爵家の人間ではない、と。

 両親に会うことも、兄に会うことも少なかった。兄は、わたくしのことを汚らわしいものを見るような目で、いつも睨んでいた。優しくしてくれたのは、侍女だけ。

 家族ではないから、そういう扱いを受けていたの?

 もしも、もしも本来のマーセルとして、男爵家で育っていたら、わたくしは家族に愛されていたの?

「……わたくしを、望んでくださるの?」
「そう言っているだろう? カミラ嬢なら大歓迎だ。それに、リンブルグは良い国だよ。暖かいし、食べ物は美味しいし、俺の両親はきっときみのことを気に入って可愛がると思う。妃になるということは、俺と一緒に国を背負ってもらうことになるけどね」

 もう一度ハンカチでわたくしの目元を拭い、レグルスさまは立ち上がった。

 すっとわたくしに手を差し伸べるのを見て、震える手で彼の手を取り、立ち上がる。

「取り乱してしまい、申し訳ありません」
「いいや。可愛い姿が見られたよ。次に泣くときは、カミラ嬢の姿で……うれし涙なことを願おう」
「ふふ、なんですか、それは」

 明るい口調のレグルスさまに、わたくしの心が楽になったような気がする。手を離して、彼に頭を下げてから顔を上げて微笑む。

「わたくしを望んでくださってありがとうございます。『カミラ』に戻ったあと、あなたのもとへ参ります」

 わたくしの言葉に、レグルスさまは嬉しそうに破顔した。
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