女神は天秤を傾ける
39 無理です
「え? いまなんておっしゃったのですか?」
聞こえてた。ちゃんと聞こえてたけど、聞き間違えかもしれない。
そう思ったから改めて聞いた。
「おいおい、なに言ってんだ」
「もちろん、大っぴらに連れてはいきませんよ。秘密裏にです」
「当たり前だ」
二人で、私を置いて話をしているので慌てて割って入る。
「え? ちょっと待ってください! 私にも説明を……」
「ユー、部屋を用意させるのでマドックを呼んできてください」
ギュイッ。
え?
いま、敬礼した?
ユーは、モアディさまに向かって手を挙げてまるで応えるみたいに。
ギィギィッ。
そして元気よく、モアディさまが開けた窓から飛び立ってゆく。
「……あの、もしかしてですけど、ユーの中に優秀な部下を閉じ込めてたりしませんよね?」
「……馬鹿らしい」
言わなければよかった。
その冷たい見下みくだしで、足元まで冷たくなりました。
「それより、同行とは? 私もスハジャ公国に行くってことですか? 一緒に?」
思ってもいない展開に、頭が追い付かない。
だけど、モアディさまにとって、私は要注意人物として確定してしまったということはわかる。
「その言葉のままですよ。スハジャ公国には明後日発ちます。着替が必要でしたらこちらで手配します。要りますか?」
「い、要りますけど!」
着替えなんて、そんなことじゃない。
強引に話が進んで、怖い。
こんなの、さっきのイリと同じだ。
「おい、こいつは関係ないだろ」
「関係ない? あの話をなぜ知っているか確かめるためです」
「だからって……」
イリも混乱して、少し焦っているように見えた。
「い、行けません。私…」
断りたい。
こんな経験しなかった未来、どうしていいかわからない。
「怖いですか?」
「怖いとか、そんな問題じゃないです。私が帰らないと……」
「誰も心配しませんよ」
ぴしゃりと斬られた。
私を心配する家族なんていないと。
事実を突きつけられると、さすがにまだ痛む胸がある。
「おい、モアディ、言い方」
「言い方? 伝わりませんか? 帰せないとはっきり言えばいいですか?」
………はっきり言われても、無理です。
聞こえてた。ちゃんと聞こえてたけど、聞き間違えかもしれない。
そう思ったから改めて聞いた。
「おいおい、なに言ってんだ」
「もちろん、大っぴらに連れてはいきませんよ。秘密裏にです」
「当たり前だ」
二人で、私を置いて話をしているので慌てて割って入る。
「え? ちょっと待ってください! 私にも説明を……」
「ユー、部屋を用意させるのでマドックを呼んできてください」
ギュイッ。
え?
いま、敬礼した?
ユーは、モアディさまに向かって手を挙げてまるで応えるみたいに。
ギィギィッ。
そして元気よく、モアディさまが開けた窓から飛び立ってゆく。
「……あの、もしかしてですけど、ユーの中に優秀な部下を閉じ込めてたりしませんよね?」
「……馬鹿らしい」
言わなければよかった。
その冷たい見下みくだしで、足元まで冷たくなりました。
「それより、同行とは? 私もスハジャ公国に行くってことですか? 一緒に?」
思ってもいない展開に、頭が追い付かない。
だけど、モアディさまにとって、私は要注意人物として確定してしまったということはわかる。
「その言葉のままですよ。スハジャ公国には明後日発ちます。着替が必要でしたらこちらで手配します。要りますか?」
「い、要りますけど!」
着替えなんて、そんなことじゃない。
強引に話が進んで、怖い。
こんなの、さっきのイリと同じだ。
「おい、こいつは関係ないだろ」
「関係ない? あの話をなぜ知っているか確かめるためです」
「だからって……」
イリも混乱して、少し焦っているように見えた。
「い、行けません。私…」
断りたい。
こんな経験しなかった未来、どうしていいかわからない。
「怖いですか?」
「怖いとか、そんな問題じゃないです。私が帰らないと……」
「誰も心配しませんよ」
ぴしゃりと斬られた。
私を心配する家族なんていないと。
事実を突きつけられると、さすがにまだ痛む胸がある。
「おい、モアディ、言い方」
「言い方? 伝わりませんか? 帰せないとはっきり言えばいいですか?」
………はっきり言われても、無理です。