女神は天秤を傾ける

42 ワナワナ

「なっ、なっ、なっ……」



 あまりの動揺に、言葉を継げない。




「は、はっ、はっ」



 言葉が出ないから、息ばかり吸ってしまう。



 暖かく感じたのは左のイリ、ひんやりと心地よかったのは右にいたモアディさま。

 私は二人に引っ付いて寝ていたことになる。



 お、おまけに―――――。




「わ、私の服ドレスは? な、なんでイリは裸なの!?」



 やっと声が出た。

 ひきつってはいたけれど。



「静かにしてください。説明しますので、騒がないで」



 のそりと起き上がったモアディさまは、薄衣を身に着けていた。

 から、いいわけではない。




「なんだ、元気じゃねぇか」

「ふ、服着てよイリッ」



 それまで寝台から出てこないで欲しい。



「わ、私になにをっ!?」



 なにがどうして、こんなことに?



「こんなことが知れたら、しれたらっ」

 お嫁に行けなくなるっ。



「だったら、もっと声を控えてはどうですか?」



 私の慌てぶりがまったく伝わっていないモアディさまは、面倒と思っているのが顔に張り付けている。



「なっ、なっ……」

 私になにをした!? と聞きたいのに、動揺が言葉を紡がない。

 親以外の異性と同じ寝台に寝るなんて、結婚以外ありえない!!!

 そもそも、私はお父さまとも寝たことがないのに。



「なにもしていませんよ。それどころか、あなたを温めたり冷やしたり、忙しい夜で寝不足です。元気なようなので、感謝して欲しいぐらいです」



 はぁ!?

 声に出ていたら、きっとまた冷たい目で見られるだろう心の声。



 感謝って、誰にですか!?

 私はいきなり氷で呪縛されて、そのせいか体調を崩したんですよ。

 私を氷漬けにしたのは誰だって言うんです、誰に感謝を述べろと!?

 ワナワナして身体が震えた。



 心の声。

 出しちゃだめ、声にしちゃだめ。騒いだらだめ。

 呪文のように自分に言い聞かせた。
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