女神は天秤を傾ける

047、ひとつしかないもの

「ここに住んでいたのね」



 食事を終えて案内された二階の部屋は、広くはないけれど掃除はされているみたいで清潔そうに見えた。

 イリのことだから散らかっているのかと思ったら、そもそも散らかる荷物がない。

 ほこりなどはみえないけれど、長く使ってはいない感じがした。



「今夜はここに寝るのね」

 ざっと見たところ、寝台はひとつ。

 私にゆずってはくれるだろうけど、モアディさまも寝台を所望しそう。

 じっとひとつしかない寝台を二人で見つめてしまう。



「ぷっ……あははははっ」



 突然イリが前かがみにお腹を押さえて笑いだすから、びっくりした。



「心配するなよ。ここには予備の寝具があるからあとで持ってきてくれる。まぁ、寝台はお嬢さんに譲ってやれよ、モアディ」

「わ、わかっています。さすがに女性を床には寝させませんよ」





 そう言ったモアディさまは、とても渋々といった感じで、この人は本当に心情が顔に出ちゃう人だな。



「一応他に部屋があるか聞いてみたが、いまサザーキの旬で、それを狙ってるやつらが来てて空いてないんだと」

「サザーキって、さっき食べた魚?」



 白身のとても美味しい魚だったけれど、イリが自慢していた魚の事かしら。



「それに、お嬢さんが寝台で寝れば、なにか夢を見るかもしれないな」

 にやりとしたイリは、私の夢見のことを信じていない目だ。

 そりゃぁ、嘘だけれど。

 

「毎回見るとは限りません。それに、お嬢さんはやめて。リーディアと名前で呼んでください」

 見た目はまだ大人ではないけれど、お嬢さんなんて中身は大人なのでなんかもぞもぞしてしまう。 



 だけど、夢見を信じてもらうためにも明日の朝はなにか、これから起こることを口にした方がいいかもしれないわね。

 とにかく、早く寝たい。

 慣れない馬で、くたくたになったんだもの。





 無事ジアが運んでくれた寝具で二人は床に、私は寝台で眠りにつくことができた。

 ふかふかではないけれど、贅沢は言っていられない。



「おやすみなさい」





 そして私は夢を見る。
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