距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜
翌日。
いつものように社長を出迎えてから、芹奈は秘書室でパソコンに向かっていた。

他の秘書達も、それぞれ専属役員の出迎えとスケジュール確認を終えて秘書室に戻ってくる。

皆で雑談しつつ作業していると、開け放ってあるドアをコンコンとノックする音がした。

「失礼」
「副社長!?」

皆は慌てて椅子から立ち上がる。

「どうかなさいましたか?」

村尾が近づくと、翔は大きな紙袋を差し出した。

「これ、よかったらみなさんでどうぞ。昨日はありがとう、助かりました。じゃあ」

そう言うとくるりと背を向けて去っていく。

しばし呆然としたあと、芹奈達は互いに顔を見合わせた。

「なんだろう?どうして急に?」
「昨日はありがとうって、何の話?」

ポカンとする中、村尾が参ったと言わんばかりに表情を崩す。

「昨日、秘書室のメンバーみんなで資料と報告書を作ったことを話したんだ。それを労ってくれたんだと思う」
「えっ、たったそれだけで、副社長自らがこれを用意してくださったの?私達の為に?」

わらわらと集まり、村尾の広げた紙袋を覗き込む。

「わあっ!これ、今すっごく人気のお菓子ですよ!高級チョコレート店のラングドシャ!すぐ売り切れちゃうから、なかなか手に入らないんです」

菜緒の言葉に、ええー!?と皆でまた驚く。

「そんな大変なものを、こんなにたくさん?」
「大丈夫だったのかしら?まさか副社長、開店の何時間も前から並んだとかじゃないわよね?」

いや、そうかも!と村尾が言い、またしても皆で、ええ!?と仰け反る。

「だって今朝、副社長から、社に直行するからマンションに迎えに来なくていいって言われたんだ。プライベートなことだろうから理由は聞かずに、分かりましたってだけ返事したけど。まさか、このお店に朝から行ってらしたとはなあ」

皆でしばしじっとお菓子を見つめる。

「どうする?いただいてもいいのかな?」
「それは、まあ。受け取らないのも失礼だし、返されても困るよね?」
「じゃあ、ありがたくいただこうか」
「そうね」

早速手を伸ばし、皆で食べてみた。

「わっ、美味しい!サクサクで上品な甘さ」
「ほんと。あ!コーヒー淹れれば良かったね」
「確かに合いそう。まだたくさんあるし、今からでも淹れようよ」

そうしてコーヒーを飲みながら「幸せー」と皆でお菓子を味わう。

「村尾くん、くれぐれも副社長によろしく伝えてね」
「そうよ。私達、もう大感激ですって」
「また何かお手伝い出来ることがあれば、何でもおっしゃってくださいって」

村尾は皆の言葉に笑顔で頷いた。
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