距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜
しばらくしてアメリカとの時差を計算した翔が、CEOと話してくる、と言って隣室に消えた。

「村尾くん、遅くまでごめんね。副社長が戻って来て、CEOとの話の内容を資料に反映させたら帰れるから」
「ああ、分かった」
「私のことは気にせず、先に帰ってくれてもいいよ」
「俺もマンションに関する資料、まだ仕上がってないんだ。だから気にするな」
「うん、ありがとう」

十分ほど経ったところで戻って来た翔に、村尾が尋ねる。

「副社長。石津社長のこと、何か言われましたか?」
「いや、まだ何も。これから石津社長がCEOに俺のことを悪く言うかもしれないけど、それまでにある程度は友好関係を築いておこうと思って色々話してきた。CEOは、基本的にはこちらの意向に添うとおっしゃっていた。それから今後の窓口として、本社の海外マーケティング事業部の社員を紹介してもらったよ。英語のやり取りになるから、俺が直接関わろうと思う」
「承知しました。ここまで話が進むと安心ですね」
「ああ。けど逆にプレッシャーもある。必ずコンペに打ち勝って、用地を獲得してみせなければな」
「はい。私も全力で挑みます」

村尾の言葉に、私もです、と芹奈も続く。

「ありがとう。二人がいてくれて本当に心強い。あと少し、無理をさせてしまうかもしれないが、力を貸してほしい」
「はい」

大きく頷くと、三人でまた作業の手を進める。

あまりに集中していたせいか、次に芹奈が気づいた時には24時を過ぎていた。

「ごめん!村尾くん、すっかり遅くなって……」

顔を上げると、向かいの席で村尾は背もたれにもたれて眠っていた。

「さっきあくびをかみ殺してたから、ベッドで仮眠してきたら?って言ったんだ。平気ですって言ってたけど、やっぱり疲れてたみたいだな」

隣から翔が説明し、芹奈は「そうでしたか」と言って立ち上がる。
クローゼットからブランケットを持って来ると、そっと村尾の身体に掛けた。

「里見さんも、よかったら隣の部屋で休んで」
「いえ、私は大丈夫です。副社長こそ、どうぞ休んできてください」
「俺も大丈夫だよ。ショートスリーパーだし、なかなか寝付けないから」
「そう言えば、眠りも浅くて4時とかに目が覚めてしまうんでしたよね?お身体、大丈夫ですか?」
「うん。慣れてるからね」
「でも毎日そんな睡眠時間では心配です。昔からそうなんですか?どうにか改善出来ないのでしょうか」
「どうだろう?前はそうでもなかったんだけど、今回帰国してからこうなって。時差ボケが続いてるのかも?あはは!」

ええ!?と芹奈は驚く。

「さすがにそれはないですよ」
「ごめん、冗談だよ。俺のことは心配しなくていいから」

そう言うと翔はローテーブルに置いていたノートパソコンを膝の上に載せ、ソファにもたれて作業を再開した。

「お、この方が楽だな」
「ほんとですか?」
「うん。このテーブル低すぎてやりにくいでしょ?」
「確かに。じゃあ私も……。あ、ほんとだ。楽ですね」

静けさの中、カタカタと二人はパソコンに集中する。

(あともう少しで仕上がりそう。ちょっとコーヒーでも飲もうかな)

しばらくして顔を上げた芹奈は、翔にもコーヒーを淹れようかと右隣を見た。

「副社長、コーヒー召し上がりますか?あれ、副社長?」

いつの間にか肩が触れ合っていて、翔は芹奈に寄り添うように眠っている。
ゆっくり芹奈が背もたれにもたれると、同じように身体が沈んだ翔の頭がトンと芹奈の右肩に載った。

そっと様子をうかがうと、長いまつ毛を伏せて気持ち良さそうに眠っている。

(良かった、眠れたみたい)

芹奈は小さく微笑むと、翔を起こさないよう静かにパソコンに指を走らせていた。
< 87 / 138 >

この作品をシェア

pagetop