『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

「ひゃ、ひゃんなぴゃみゃ(だ、だんなさま)!?」

「お前……今、何を言おうとした?」

 ハロルドが凄い目力で妻を睨んでいた。完全に戦場での視線運びである。
 彼女はするりと夫の腕の中をすり抜けて逃げた。

「特に何も言っていませんわ」

「嘘をつけ。あのことをバラそうとしただろ?」

「違いますぅ〜」

「絶対に言うなよ!」

 彼女は誤魔化すように「ピュピュピュ〜」と下手くそな口笛を吹きながら彼から距離を取った。

 その隙を狙ってレックスがタッくんを捕らえようとしたが、ドラゴンはさっとすり抜けて、今度はハロルドの背中にひっつく。

「お前の息子の未来はなかなか困難だぞ。あれは将来、公爵家を過去最高に繁栄させるか、あるいは滅亡させるか……だ」

 ハロルドは伝説のドラゴンの思わぬ予言に顔を綻ばせた。

「それは、父よりも優れた人物になるということか? 親としては喜ばしいことだな」

「我は破滅させる可能性のほうが高いと考える」

「その時は、ロレッタが止めてくれるさ」

「あたし、そのころには、けっこんをして、こうしゃくけをでていってるわ」

 いつの間にか近くに来ていたロレッタが、ツンと澄ました顔で言った。

「けっこ……」

 愛娘の衝撃的な言葉に父は一瞬だけ凍り付いたが、遠い未来のことなど考えないことにした。

「そうなるかもしれないが……。その時は、レックスの妻が止めてくれるだろう。――ところでロレッタ、本当に嫁に行くつもりか? もう相手がいるのか? 誰だ? 私が知っている令息か?」

 やっぱり、遠い未来が気になってしまう父であった。

「旦那様、本日は王宮で騎士団の訓練なのでは?」

 継子(ロレッタ)が父親の質問攻めに困っていたので、キャロラインは話題を変えて助け舟を出した。

「おお、そうだった」

 ハロルドは思い出したように、懐から一通の手紙を出した。

「これは……!?」

 キャロラインははっと息を飲む。
 封蝋(ふうろう)には、この国なら誰でも知っている盾とユニコーンの紋章。それは、グローヴァー王家の印だった。

 嫌な予感がする。

 そんな彼女の微かな動揺を察知したハロルドは、申し訳なさそうにため息交じりで言った。

「国王陛下から夜会の招待状を(たまわ)った。もちろん夫婦同伴でだ」



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