本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~
川口直人 70
「え? 何だって?」
目の前の常盤恵理に尋ねた。今夜も俺は呼び出され、2人でフランス料理店にやってきていた。
「だから、明日は用事があって会えないのよ。その代わり21時になったら私のスマホに電話を掛けてちょうだい」
「どうして21時になんて……」
「いいでしょう!? 婚約者に電話を掛けるのは当然なんじゃないの!?」
常盤恵理はヒステリックに叫ぶ。やはり機嫌が悪いのはネットに俺達の事がニュースで報道され、その事で責めたのが原因なのかもしれない。岡本にあれ程常盤恵理の機嫌を取る様に言われていたのに、この女を前にすると、どうしても憎しみだけが募り、文句を言ってしまう自分がいた。
「わ、分った……言う通りにする……」
これ以上、機嫌を損ねない様にする為に頷くしか無かった――
****
翌日21時――
「全く気が重いな……」
自室で溜息をついた。今日も父と資金繰りの為に駆け回り、精神的にも肉体的にも疲れきっていた。その上、今からあの女に電話を入れなければならないのだから。
「これが……鈴音に掛ける電話なら良かったのに……」
どうしようもなく鈴音に会いたかった。声が聞きたかった。なのに……今の俺には何も出来ない。
溜息をつきながらスマホをタップした。常盤恵理の前に愛しい鈴音が座っていることなど知りもせずに……。
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
「……おかしいな……? 電話に出ないなんて……」
もう5コール以上鳴っている。
「何だよ……自分の方からかけていこいと言ったくせに……」
丁度電話を切ろうとした時の事だった。
『もしもしっ!?』
常盤恵理が電話に出た。
「電話を掛ける約束だっただろう? 言われた通りに掛けたぞ」
すると何故か常盤恵理はイライラした口調で詰ってきた。
『知ってるわよ! いちいち恩着せがましい言い方するのはやめてくれる!?』
「何だって……?」
自分から掛けてこいと言ったくせに……何て嫌な女だ。
『とりあえず、もう電話は結構よ! 忙しいから切るわよ!』
そして電話はそのまま切れてしまった。
「一体何なんだ……? 奇妙な女だ……」
だが、今夜は煩わしい女からは解放される。
「ふ~」
安堵のため息をついた。だがこの時の俺は何も知らなかった。まさか鈴音が常盤恵理にホテルのチケットと鍵の返却を求められ、挙句に手切れ金を掴まされそうになっていたと言う事を――
****
その後も父と2人で会社を立て直すために資金繰りに奔走した。
社内で新しい商品開発プロジェクトを立ち上げて、クラウドファンディングで融資を募ったり、今まで取引が一度も無かった銀行に融資を頼んでみたり、専門家を雇ってアドバイスを受けたり……少しずつ資金が貯まっていった。
そして、俺は常盤社長との面談の約束を取り付けた――
****
午前10時―
常盤商事の社長室と社長室で向かい合わせに座っていた。
「何? 資金がある程度たまったから、婚約を解消させて貰いたいだと?」
「はい、そうです。なので娘さんとの結婚は無かった事にさせて下さい」
テーブルの前に今後の事業計画、並び現資産を全て表にまとめた資料を社長に提示した。
「どうぞ、御覧下さい」
「……」
常盤社長は書類を手にし、暫くの間沈黙したまま目を通していた。その間、心臓は激しく波打ち、生きた心地がしなかった。やがて社長は溜息をつくと言った。
「ふぅ~…まだまだだな」
パサリと資料をテーブルに置かれてしまう。
「こんな額ではまだまだだ。君は甘いな」
「で、ですが……!」
「まぁしかし……」
そこで社長は言葉を切った。
「たった僅かな期間でマイナス資産をプラスにする事が出来たのは良いだろう。だが。このままでは我が社が手を引けば確実に川口家電は倒産するだろう」
「……」
黙って社長の話を聞いていた。
「娘とそこまでして結婚したくないか? そんなに元恋人が忘れられないのか?」
「え!?」
その言葉に驚き、顔を上げた――
目の前の常盤恵理に尋ねた。今夜も俺は呼び出され、2人でフランス料理店にやってきていた。
「だから、明日は用事があって会えないのよ。その代わり21時になったら私のスマホに電話を掛けてちょうだい」
「どうして21時になんて……」
「いいでしょう!? 婚約者に電話を掛けるのは当然なんじゃないの!?」
常盤恵理はヒステリックに叫ぶ。やはり機嫌が悪いのはネットに俺達の事がニュースで報道され、その事で責めたのが原因なのかもしれない。岡本にあれ程常盤恵理の機嫌を取る様に言われていたのに、この女を前にすると、どうしても憎しみだけが募り、文句を言ってしまう自分がいた。
「わ、分った……言う通りにする……」
これ以上、機嫌を損ねない様にする為に頷くしか無かった――
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翌日21時――
「全く気が重いな……」
自室で溜息をついた。今日も父と資金繰りの為に駆け回り、精神的にも肉体的にも疲れきっていた。その上、今からあの女に電話を入れなければならないのだから。
「これが……鈴音に掛ける電話なら良かったのに……」
どうしようもなく鈴音に会いたかった。声が聞きたかった。なのに……今の俺には何も出来ない。
溜息をつきながらスマホをタップした。常盤恵理の前に愛しい鈴音が座っていることなど知りもせずに……。
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
「……おかしいな……? 電話に出ないなんて……」
もう5コール以上鳴っている。
「何だよ……自分の方からかけていこいと言ったくせに……」
丁度電話を切ろうとした時の事だった。
『もしもしっ!?』
常盤恵理が電話に出た。
「電話を掛ける約束だっただろう? 言われた通りに掛けたぞ」
すると何故か常盤恵理はイライラした口調で詰ってきた。
『知ってるわよ! いちいち恩着せがましい言い方するのはやめてくれる!?』
「何だって……?」
自分から掛けてこいと言ったくせに……何て嫌な女だ。
『とりあえず、もう電話は結構よ! 忙しいから切るわよ!』
そして電話はそのまま切れてしまった。
「一体何なんだ……? 奇妙な女だ……」
だが、今夜は煩わしい女からは解放される。
「ふ~」
安堵のため息をついた。だがこの時の俺は何も知らなかった。まさか鈴音が常盤恵理にホテルのチケットと鍵の返却を求められ、挙句に手切れ金を掴まされそうになっていたと言う事を――
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その後も父と2人で会社を立て直すために資金繰りに奔走した。
社内で新しい商品開発プロジェクトを立ち上げて、クラウドファンディングで融資を募ったり、今まで取引が一度も無かった銀行に融資を頼んでみたり、専門家を雇ってアドバイスを受けたり……少しずつ資金が貯まっていった。
そして、俺は常盤社長との面談の約束を取り付けた――
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午前10時―
常盤商事の社長室と社長室で向かい合わせに座っていた。
「何? 資金がある程度たまったから、婚約を解消させて貰いたいだと?」
「はい、そうです。なので娘さんとの結婚は無かった事にさせて下さい」
テーブルの前に今後の事業計画、並び現資産を全て表にまとめた資料を社長に提示した。
「どうぞ、御覧下さい」
「……」
常盤社長は書類を手にし、暫くの間沈黙したまま目を通していた。その間、心臓は激しく波打ち、生きた心地がしなかった。やがて社長は溜息をつくと言った。
「ふぅ~…まだまだだな」
パサリと資料をテーブルに置かれてしまう。
「こんな額ではまだまだだ。君は甘いな」
「で、ですが……!」
「まぁしかし……」
そこで社長は言葉を切った。
「たった僅かな期間でマイナス資産をプラスにする事が出来たのは良いだろう。だが。このままでは我が社が手を引けば確実に川口家電は倒産するだろう」
「……」
黙って社長の話を聞いていた。
「娘とそこまでして結婚したくないか? そんなに元恋人が忘れられないのか?」
「え!?」
その言葉に驚き、顔を上げた――