本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~

川口直人 72

「兄ちゃん……いいのか?」

それはクリスマスイブの夜の出来事だった。この日は弟の和也がマンションに来ていた。

「何が?」

シャンパンを飲みながら返事をする。

「何がって……今夜はイブだろう? 俺と2人で部屋で飲み合ったりして本当に大丈夫なのかなって思ってさ」

「イブだからどうしたっていうんだよ」

テーブルの上に並べられた料理の中からチキンを選んだ。

「……婚約者と会わなくていいのかなって思ってさ」

その言葉に思わず手が止まる。すると慌てたように和也が謝ってきた。

「あっ、ご、ごめん! 別に悪気があって言ったわけじゃないんだ! た、ただ……さ……」

「いいんだよ。確かにデートには誘われたけどな……」

全く……あの時の事を思い出すだけで腹が立ってくる。
常盤恵利は数日前、あろうことか鈴音から奪ったホテルの宿泊券を差し出して、2人で一緒にお泊りデートをしようと言ってきたのだ。
そのチケットは何処で手に入れたのかを尋ねると、図々しくも金券ショップで売られていたなどと言った。
そんな嘘をついて俺を騙せると思った事も怒りを増幅させる。そして結局俺は常盤恵利の誘いを断った。仕事で忙しいから無理だと言って。俺の返事にてっきりまたヒステリックに暴れるかと思っていたが、驚いたことに今回はあっさりと身を引いてきた。

あれは……一体どういう風の吹き回しだったのだろう?

「そうだ……鈴音が……チケットを売るはずがない……」

気付けばポツリと口に出していた。

「……どうしたんだ? 兄ちゃん」

「いや。何でも無い。そんな事より、和也は良かったのか? 俺なんかと一緒にイブを過ごしたりして……デートとかの約束は無かったのか?」

すると和也は口を尖らせてきた。

「俺には彼女なんかいないよ。あ、そうだ。兄ちゃんの恋人だった……鈴音さん……だっけ? すごく綺麗な人なんだよね?」

俺はじろりと和也を睨みつけた。

「お前…まさか鈴音に手を出すつもりか?」

「や、やだな〜……じょ、冗談だってば! そんな凄んだ目をしないでよ」

和也は慌てた様に言うと、チキンに手を伸ばしてかぶりつく。

「あ〜やっぱり美味いな〜」

そして美味しそうに頬張る。そんな和也を見ながら思った。
和也は……いい奴だ。もし、俺がどうしても常盤恵利と別れられずに……最悪、結婚出来なかった場合はいっそ和也に……。

「な、何? 人の顔じっと見たりして……」

「和也……実は、お前に頼みがあるんだ……」

「え?」

俺は和也にあることを頼んだ。
和也は最初驚いて一度は断ってきたけれども、最終的には頷いてくれた。

そうだ、今の俺は鈴音にどうしてあげる事も出来ない。だとしたら、信頼できる者に鈴音を託すしか無いんだ。

俺が全てを解決出来るまで――
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