本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~

亮平 7

 その時、俺は忍と部屋にいた。テーブルの上に置いたスマホをじっと眺め、鈴音からの電話を待っていた。一方の忍は退屈そうに雑誌をペラペラとめくっていたが、それにも飽きたのか、俺にしなだれかかってきた。

「ねぇ、進さん……いいでしょう……?」

すっかり俺の事を進と思い込んでいる忍が首に腕を絡めてきた。まただ、忍が俺を求めて……いや、進を求めてねだってきた。苦痛な時間だった。忍と関係を持つ度に鈴音の顔が頭によぎる。
俺は……最低だ。他の女を思いながら忍を抱いているのだから……いや、そうじゃない。こんな事……少しもしたくはないのに、まるで何かに操られるように俺は逆らえなくなるんだ。だけど流石に今は駄目だ。鈴音から電話がかかってくるかもしれない。

「駄目だ、忍。今は……」

言いかけた時に、テーブルの上のスマホが鳴った。着信相手はやはり鈴音だった。何てタイミングが悪いんだ! 本当は電話なんか無視しておけばいいのだろうが、他ならぬ相手は鈴音なんだ。鈴音の電話なら出なければ……!

まとわりついてくる忍の腕を払い、テーブルの上のスマホに手を伸ばしてタップした。

「もしもし……」

『あ、あのね、亮平。私……』

電話越しから鈴音の声が聞こえて来る。その時……。

「電話……後にしてよ……」

忍が背後から首に腕を回して抱きついてきた。よせ! やめろよっ! 心の中では叫んでいるのに、俺の口からは別の言葉が出てくる。

「忍……だけど、この電話……んっ」

忍が俺にキスをし、言葉を塞がれてしまう。そしてそのままソファの上に押し倒されてしまった。驚いて忍を見ると、俺を見下ろしながら自分の服を脱ぎだしている。

『…ッ!』

受話器からは鈴音の息を飲む気配が感じられた。何て事だ……鈴音に知られてしまった!
鈴音……俺は……。意識が朦朧としてくる。ああ……またこの感覚だ。こうなると自分の意思とは無関係に勝手に体が動いてしまう。

「!」

忍の腕を掴んで自分の身体の下に組み敷き、今度は俺が忍の上になる。

「忍……愛してる」

俺の口は勝手に動き、そのまま忍にキスをした。

そこから先の記憶は……いつも無かった――



****


「ねぇ……進さん」

気づけば俺は忍とベッドの中にいた。当然、2人とも裸だ。

「何だ?」

「年末年始を利用して、どこか温泉旅行へ行きたいわ」

「旅行か……たまにはいいかもな」

そうだ、環境に変化があれば忍の精神も安定するかも知れない。俺自身の訳の分からない行動も……。

「そうだな、行くか」

「その時は鈴音ちゃんを誘ってね」

「え? 本気で言ってるのか?」

忍の言葉に耳を疑った。

「ええ本気よ。そして私と進さんの仲を見せつけてあげるのよ」

「な、何だって?」

本気で言ってるのか?

「ええ、私達は愛し合っているのだから、邪魔をしないでと口で言うよりも効果があるでしょう?」

「忍……」

忍の言葉にぞっとした。一体何を言い出すんだ? 鈴音に見せつける? 何の為に? 鈴音は俺に少しも興味を示さず、元カレと一緒に暮らしているのに? けれど、俺はまた自分の意思とは無関係に返事をしていた。

「ああ、分かった。明日……鈴音が勤務している旅行会社に行ってくるよ」

俺は忍に笑顔で返事をしていた。


****

 翌日、日曜日の夕方。

俺は胸を弾ませながら鈴音の働く旅行代理店のドアをくぐり抜けた。鈴音は……いた! カウンターの奥でPCを見つめている。
やっぱりどんなことをしていても、鈴音は綺麗で絵になる。


「いらっしゃいませ」

窓口に座る女性が声をかけてきた。その時、俺は見た。鈴音が顔を上げてこっちを見ているのを……。大きな目を見開いて俺をじっと見ている。それだけで胸がときめく。

あいつ……相当驚いているな? 

そこで俺はカウンターの女性に鈴音を指名して呼びつけた。
鈴音は明らかに不満そうな顔で俺を睨みつけたが、会社内で妙な事は出来ないと思ったのだろう。

「いらっしゃいませ、お客様。ではまずお掛け下さい」

対して心のこもっていない言葉で椅子を勧めてきた。俺が座ると、鈴音も向かい側の席に座る。

「では、お客様。どのような旅行をご希望ですか?」

そこで鈴音に自分の希望を述べた。年末年始に箱根で1泊2日を希望していると伝えた。そして3人で行くと言った時、鈴音が顔を上げて俺を見た。

「……3人ですか?」

「お前も行くんだよ鈴音」

そう言った時、鈴音のPCを操作する動きが止まった。……どうしたんだ?

「あの、何か良いプランが見つかり次第、ご連絡させて頂きますから」

鈴音は俺の顔を見ようともしない。それはまるで早く帰ってくれと拒絶の態度に見えた。

「……分かったよ、じゃあな」

「ありがとうございました」

鈴音は俺の方を見ることもない。仕方ない……今は帰ろう。


また後で来るからな。

心の中で鈴音に語りかけた――

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